【交通】交通分野グリーンエネルギー転換プログラムの概要(首相決定876/QĐ-TTg号)

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ベトナム交通分野のグリーン転換政策

― 首相決定876/QĐ-TTg(2022年公布)を起点とする脱炭素戦略の全体像 ―

政策の出発点:首相決定876/QĐ-TTg(※2022年公布)

2022年7月22日、ベトナム政府は首相決定第876/QĐ-TTg号を公布し、交通運輸分野におけるグリーンエネルギー転換および温室効果ガス排出削減プログラムを正式に承認しました。

本決定は既に3年以上前に公布された中期国家戦略文書であり、現在は構想段階ではなく「実施段階」に入っている政策です。したがって、本政策は「新たに発表された制度」ではなく、現在進行中の国家交通再編プロジェクトの法的出発点と位置付けるべきものです。

ベトナムは2050年カーボンニュートラル(ネットゼロ)達成を国家目標として掲げていますが、決定876はその交通分野における実行計画として策定されました。交通部門はベトナムにおける温室効果ガス排出の主要源の一つであり、急速な都市化とモータリゼーションの進展により排出量は増加傾向にあります。そのため、交通分野の構造転換は不可避とされています。

重要なのは、決定876が単なる将来ビジョンではなく、既に関連法令・通達・指令へと展開されている「実行中の国家戦略」であるという点です。

EV転換計画の具体像

【法的根拠】
ベトナム政府 首相決定第876/QĐ-TTg号
(グリーンエネルギー転換に関する国家プログラム)

【対象都市】
ハノイ市およびホーチミン市

【主な方針】

・2026年以降、中心部において化石燃料を使用するバイクの走行を段階的に制限
・2030年までに都心部でのガソリンバイク運行停止を目標
・2026年以降、新規登録される公共交通車両および配送サービス車両は100%電気自動車とする方針

ここで重要なのは、「即時全面禁止」ではなく「段階的移行」である点です。国家は現実的な時間軸を設定し、経済活動とのバランスを取りながら転換を進めています。

決定876の本質:EV政策だけではない

決定876は単なるEV普及政策ではありません。

その本質は、

  • 化石燃料依存の縮減
  • エネルギー効率の向上
  • 交通インフラのグリーン化
  • 排出削減と経済成長の両立

を包括的に設計した「交通分野の再構築計画」にあります。

つまり、電動化は一手段であり、目的は交通システム全体の低炭素化です。

政策の時間軸構造

決定876は二段階構造を採用しています。

(1)~2030年:移行加速期

  • EV市場形成
  • 公共交通の電動化
  • 充電インフラ整備
  • 排出基準強化

(2)2031~2050年:構造転換期

  • 化石燃料車両の段階的縮小
  • グリーン燃料への全面転換
  • ネットゼロ達成

ここで重要なのは、「既存内燃機関車両をどう扱うか」という問題です。

E10義務化(通達第50号)との接続

EV化は長期目標ですが、現実にはベトナムの車両の大半は依然として内燃機関車です。

そこで導入されたのが、バイオ燃料混合比率の引き上げ政策です。

商工省通達第50/2025/TT-BCT号により、

・2026年6月1日からE10(エタノール10%混合)を全国義務化
・従来のRON95は事実上置き換え
・E5 RON92は2030年まで並行流通

が定められました。

これは決定876の理念を具体化した「短期的排出削減措置」です。

つまり、

短期:E10で既存車両の排出削減
中期:公共交通EV化
長期:内燃機関からの脱却

という三段階モデルが形成されています。

首相指令20/CT-TTgの意味

さらに、首相指令20/CT-TTgは、バイオ燃料市場の安定確保およびE10導入準備の加速を各省庁および事業者に指示しています。これは、首相決定876/QĐ-TTgが掲げた脱炭素政策の方向性を再確認し、実行段階へ移すための政治的加速措置です。指令20号は、E10義務化だけにとどまらず、都市交通構造の転換に関するタスクも明示しています。
なかでもハノイ政府とホーチミン市政府が中心となって進められているガソリン車・バイクの段階的禁止政策は、決定876と指令20号の理念を具体化したものとして注目に値します。

ハノイ市のEv化については下記別稿にて整理しています。

【参考】ハノイ市ガソリン車・ガソリンバイク段階的禁止政策の動向
https://vietnam-shinshutsu.com/helpful-info/hanoi-to-gradually-ban-gasoline-cars-and-motorbikes/

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企業への影響

首相決定876/QĐ-TTgは、環境政策としての側面が強調されがちですが、実務的に見ると、その影響は企業活動の広範な領域に及びます。本政策は単なる排出削減措置ではなく、交通関連産業および周辺産業の構造転換を伴う制度改革と位置付けることができます。

(1)EV分野への影響

電動化の加速は、自動車メーカーやバイクメーカーのみならず、物流事業者、配車プラットフォーム事業者、公共交通運営主体にも直接的な影響を及ぼします。

企業にとっては、

・車両フリートの中長期的電動化計画の策定
・既存内燃機関車両の償却計画の見直し
・充電インフラへの投資または外部事業者との提携
・都市部における走行規制への事前対応

といった戦略的判断が求められます。

特に都市中心部における段階的な内燃機関規制は、配送網や営業車両の運用設計そのものを見直す契機となり得ます。したがって、単なる車両置換の問題ではなく、ビジネスモデル再構築の問題と捉える必要があります。

(2)燃料分野への影響

通達第50号によるE10義務化は、石油販売事業者、燃料供給業者、関連設備メーカーに対して直接的な制度対応を要求します。

具体的には、

・E10対応タンク・配管設備への改修投資
・エタノール安定調達のための長期契約締結
・品質管理および混合比率管理体制の強化
・在庫管理・物流オペレーションの再設計

が必要となります。

また、燃料価格構造の変化は、運輸コストおよび製造原価にも波及する可能性があります。そのため、燃料分野の政策変更は、エネルギー事業者にとどまらず、広範な産業分野に間接的影響を与える制度改編といえます。

(3)物流・製造業への波及

交通分野の脱炭素化は、物流コスト構造およびサプライチェーン設計にも影響を及ぼします。

配送車両の電動化や都市規制の強化は、

・配送拠点の再配置
・最終配送(ラストワンマイル)モデルの再設計
・夜間配送やEV専用レーン活用の検討
・CO₂排出量算定およびESG報告対応

といった実務的対応を求めます。

特に外資系企業や上場企業にとっては、サプライチェーン全体の脱炭素化が国際的開示基準と連動するため、決定876は国内政策であると同時に、グローバルコンプライアンス問題でもあります。

(4)産業再編政策としての性質

以上を総合すると、首相決定876/QĐ-TTgは環境保護政策であると同時に、交通関連産業の構造転換を促す産業政策としての性質を有しています。

制度変更は段階的に進行しますが、その影響は累積的かつ長期的です。
企業にとっては、

・単年度のコスト増減の問題ではなく
・中長期の設備投資計画
・事業ポートフォリオの見直し
・技術選択の戦略的判断

に関わる重要テーマとなります。

したがって、本政策は「環境対応」ではなく、「経営戦略上の構造変数」として捉えることが求められます。

まとめ:決定876は進行中の制度基盤であり、企業経営に影響を及ぼす構造的政策である

首相決定876/QĐ-TTgは2022年に公布された国家戦略文書であり、単なる政策宣言ではなく、その後の首相指令および各省庁通達の制定を通じて具体化されてきました。すなわち、本決定は独立した単発の政策ではなく、交通分野における脱炭素化を段階的に制度化していくための上位設計図として機能しています。

実際に、首相指令20/CT-TTgにより実行加速が図られ、商工省通達第50/2025/TT-BCT号によりE10義務化が明文化されるなど、決定876の理念は個別具体的な規制措置へと展開しています。この流れからも明らかなように、決定876は過去の政策ではなく、現在進行形で法制度へ落とし込まれ続けている基礎文書です。

EV転換とバイオ燃料転換は対立的な施策ではなく、時間軸の異なる補完関係にあります。短期的には既存内燃機関車両の排出削減を図りつつ、中長期的には車両構造そのものを転換するという、段階的移行モデルが制度的に設計されています。

したがって、ベトナム市場で事業を展開する企業にとって、本政策は単なる環境対応事項ではありません。今後の下位法令制定、都市レベルの規制強化、燃料制度変更等を通じて、事業運営コスト、設備投資計画、物流設計、さらには事業ポートフォリオそのものに影響を及ぼす可能性があります。

決定876は「環境政策」という枠にとどまらず、交通関連産業の再編を伴う構造政策であり、企業にとっては中長期経営戦略の前提条件となり得る制度基盤と評価すべきでしょう。

本政策は環境問題の一分野ではなく、ベトナム交通経済構造そのものの再設計を意味しており、その動向は今後10年以上にわたり企業活動へ影響を及ぼし続けると考えられます。

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