ベトナムの公証法改定(政令第104/2025/NĐ-CP)概要と今後の対応ポイント
ベトナムで外資系企業が実務を進める際、法人登記関連資料(投資登録証明書、企業登録証明書、定款、株主(出資者)決議、取締役会議事録 等)、労働許可証申請資料(学位・職歴証明、雇用契約、委任状 等)、そして税務・労務・許認可に関する各種行政提出資料は、現地の公証役場(Notary Office)での「公証」や「翻訳公証」を要する場面が日常的に発生します。
ベトナムで事業運営を行う企業様は、「現地公証」の実施を多々ご経験されているのではないでしょうか。本項を御覧頂いている日本企業の皆様も現地で関わる「ベトナム現地での公証」について、今回、新たなルールが定められました。
本項では「公証法」を補足する新政令の改正ポイント、留意点、外資企業への影響など詳細を解説致します。
ベトナム政府は2025年5月15日付で、「政令第104/2025/ND-CP」 を公布。
本政令は「公証法」の実施細則を定める重要な法令であり、2025年7月1日から正式に施行されました。
1. 発行主体・法的背景
発行主体: ベトナム政府(Chính phủ)。所管は**司法省(Bộ Tư pháp)で、同省の所管法である「公証法(2024)」**を実施するための細則として位置づけられます。
政令番号: 104/2025/ND‑CP
公布日/施行日: 2025年5月15日公布、2025年7月1日施行
制度趣旨: 全国で運用が分散しがちだった公証手続をデジタル基盤と標準化で再設計し、**透明性(証跡強化)と予見可能性(統一運用)**を高めること。
改廃関係: 旧政令29/2015/ND‑CPを包括的に置き換え、現行の公証インフラと運用体制がアップデートされました。
2. 主な改定ポイントと新規導入内容
電子公証制度の整備
従来は書面での手続きが中心でしたが、電子署名や電子データを活用した公証手続きが正式に規定されました。電子公証は、物理的に現地に赴くことなく、公証人の立会いのもとオンラインで認証を受けられる仕組みであり、海外からの対応が必要な外資企業にとっては非常に実務的なメリットがあります。
手続き期間の短縮と透明化
公証に必要な審査・確認手続きの基準が明確化され、処理期間に上限が設けられました。これにより、従来のように公証役場ごとに異なる待機時間が発生するケースが減少し、スケジュール管理が容易になります。
国際的な書類の取り扱い
外国企業や外国人が提出する契約書、登記簿謄本、資格証明書などについて、翻訳・認証の方法が明文化されました。特に、翻訳者の資格や翻訳精度への基準が示され、形式的なエラーによる却下が減少する一方で、準備段階での品質管理がより重要になっています。
公証機関の民間化と移行スケジュール
本政令には、公証業務を担ってきた**公証室(国営)**を、**私設公証事務所(民間法人型)**へ段階的に移行する計画が明記されています。
具体的には、2025年7月1日から2028年12月31日までに移行しなければならず、2029年1月1日以降はすべて私設に統一されるとされています。これにより、予約制の導入や柔軟な開業時間の設定が期待され、公証にかかる待ち時間の削減など運用上の改善が見込まれます。
保証制度と公証人の責任強化
政令第104/2025/ND-CPでは、公証人の専門的責任を明文化するとともに、**最低限の責任保険加入(民間営業者として)**を義務付けることを規定しています。これは、外資系企業が依頼する文書の真正性や責任証跡が、これまで以上に担保される構造へと転換することを意味します。
また、公証人の責任範囲が整理され、偽造書類や不正利用を防ぐための監督・罰則制度が強化されました。これに伴い、公証人は職業責任保険への加入義務を負うことになり、認証の真正性に対する信頼性がさらに向上します。
3. 外資系企業にとっての意義と影響
外資系企業が直面する実務において、公証は必須のステップですが、
今回の改正は、以下のようなプラス面と注意点を併せ持っています。
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手続きの時間的負担が軽減される可能性がある
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電子公証の導入により、拠点から遠隔での申請が可能になる
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書類の真正性や翻訳の質について、より厳密な確認が求められる
結果として、業務効率化の恩恵を受けつつ、準備不足や不適切な翻訳があると却下リスクが高まるという現実的な影響が予想されますが、電子署名・電子公証に対応するため、社内のルール、IT体制、コンプライアンス手順等、「公証における内部プロセス」を見直す必要があることは、外資系企業が留意すべき直接的な影響ではないでしょうか。
4. 今後の制度運用の変化と注意点
本政令はすでに発効しており、各地の公証役場では運用ルールの周知と内部手続きの調整が進められています。当面は地域差や実務慣行の違いが生じる可能性も高く、実際の窓口で求められる書類様式や翻訳書式が統一されるまでには一定の時間を要するでしょう。
企業としては、
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書類提出前に最新の要求仕様を確認する
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電子申請の場合、システム環境や電子署名の整備を早めに行う
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運用状況に応じて、余裕を持ったスケジュール管理を行う
といった慎重な対応が求められます。特に電子公証は利便性が高い一方で、署名の有効性やデータ保存方法など、従来にないリスク管理も必要となります。
5. 弊社が提供できる支援内容
弊社では、外資系企業の皆様に対して以下の支援を提供しています。
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公証役場における法人設立・労働許可証関連資料の準備・認証サポート
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書類翻訳(ベトナム語 ⇔ 外国語)および翻訳認証支援
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電子公証システムの利用に向けた事前アドバイス
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実際の認証申請における進捗管理と行政当局との調整
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各種トラブル発生時の代替手段や再申請のサポート
これにより、企業の皆様が複雑化する公証手続きを効率的かつ確実に進められるよう全面的な支援を行います。
6. 法的根拠と制度的位置づけ
「政令第104/2025/ND-CP」は、公証法を補完する実施細則であり、公証人法務、登記実務、労働関係書類の認証といった幅広い領域での実務基準を定めています。外資系企業にとっては、単なる「法律上の背景」ではなく、日々のビジネス運営を支える基盤制度です。
特に、電子公証の制度化と公証人責任の強化は、今後の企業活動における透明性確保やリスクマネジメントの基盤となり、将来的には外資系企業にとって不可欠な業務インフラとなるでしょう。
以上、2025年7月1日施行された「公証」に関わる新ルール、「政令第104/2025/ND-CP」について、解説致しました。
本項の内容にご質問など御座いましたら、弊社へお気軽にお問い合わせください。