はじめに
ベトナムは、オフショア開発の委託先としてだけでなく、日本企業が自社の開発拠点を構える進出先としても注目されています。ソフトウェア開発に加え、AI開発、クラウド、DX関連システムなど、対象となる分野も広がっています。
一方で、拠点を設立するとなると、進出形態の選択、人材採用、法規制への対応、日本本社との連携体制など、事前に検討すべきポイントがあります。特に2026年は、デジタル技術産業法、個人データ保護法、AI法が相次いで施行され、IT事業者が確認すべき法制度が大きく動いた年です。
本記事では、ベトナムに開発拠点やIT事業の拠点を設立したいIT企業様向けに、進出前に押さえておきたい基本的なポイントを解説します。
オフショア開発の委託先をお探しの方へ ベトナムのIT企業に開発を委託する場合、現地法人の設立は必須ではありません。委託先の選び方や契約形態については、オフショア開発ガイド(公開準備中)で別途ご案内します。
ベトナムIT業市場の現状
ベトナムのIT産業は、政府によるデジタル化推進とIT教育への投資を背景に、成長を続けています。ベトナムオフショア開発協会(VOC)によると、2024年時点でIT関連領域に従事する人材は約56万人。毎年5万5,000〜6万人のIT系卒業生が、大学や専門学校から輩出されています。
日本企業との関わりも深く、日本市場向けの開発実績を持つ現地企業や、日本企業が設立した開発拠点が数多くあります。近年は従来のオフショア開発に加え、AI、IoT、クラウド、DX関連システムなど、新しい技術分野への需要も高まっています。
また、ベトナム国内でも企業のDX化やデジタルサービスの利用が広がっており、日本向けの開発だけでなく、現地市場向けのサービスを展開する余地も生まれています。
IT企業の集積は、ハノイ、ホーチミン市、ダナンの3都市が中心です。それぞれ人材や企業の特徴が異なるため、詳しくは後述の「拠点選定のポイント」で解説します。
ベトナムIT業へ進出するメリット
IT人材の厚みと採用のしやすさ
IT関連人材は約56万人、毎年5万人を超えるIT系卒業生が新たに加わっています。若い世代が中心で、クラウドやAIなど新しい技術領域を学んだ人材も増えており、開発チームを立ち上げやすい環境があります。
日本向け開発の経験を持つ人材
日本企業向けの開発経験を持つエンジニアや、日本語で日本側とやり取りできるブリッジSEも育っています。日本の品質基準や開発手法に慣れた人材を確保しやすい点は、日本企業が拠点を構える大きな利点です。
法人所得税の優遇措置
ベトナムの法人所得税の標準税率は20%ですが、条件を満たすソフトウェア開発事業では、課税所得が発生してから4年間の免税、続く9年間の50%減税といった優遇の対象となる場合があります。
ただし、優遇の対象は「ソフトウェア生産」に該当する事業が中心で、受託の内容によっては対象外と判断されるケースもあります。適用できるかどうかは、事業内容と要件を踏まえて、進出前に確認することが大切です。
成長するIT市場とASEAN展開
ベトナム国内のIT市場は拡大を続けており、開発拠点としてだけでなく、将来的に現地市場やASEAN各国へサービスを広げる拠点として活用する企業もあります。
ベトナムIT業での主な進出形態
現地法人を設立して拠点を構える
最も一般的な進出方法です。自社で開発体制を管理でき、ノウハウや人材を現地に蓄積できます。一方で、法人設立の手続き、採用、オフィスの準備、会計・労務体制の構築が必要になります。法人設立には投資登録証明書(IRC)や企業登録証明書(ERC)などの手続きがあります。
→ ベトナム進出の流れをわかりやすく解説(会社設立までのステップ)
→ ベトナム会社設立にかかる期間は?進出から事業開始までの目安を解説
ラボ型開発から始めて、法人設立へ進む
現地のIT企業とラボ型契約を結び、専属の開発チームを組成して、まず小さく始める方法です。プロジェクトの進め方や人材の質を確認しながら、体制が安定した段階で自社の現地法人を設立する企業もあります。初期投資を抑えて進出リスクを下げたい企業に向いています。
現地IT企業との提携・出資
現地のIT企業と合弁を組んだり、出資やM&Aを行ったりして、人材や顧客基盤を取り込む方法です。立ち上がりが早い反面、パートナー選びや出資に関する規制の確認が重要になります。
→ 【法務】ベトナム投資法ガイド政令96とは?外資規制と進出ルールを解説
→ ベトナム進出の費用はいくら?初期費用・運営コストの考え方を解説
進出時に確認すべき法規制・許認可
ソフトウェア開発やシステム開発は、比較的進出しやすい分野です。ただし、事業内容やサービスの提供方法によっては、追加の許認可や届出が必要になる場合があります。
加えて、IT事業者にとって見逃せないのが、2026年に施行された次の3つの法律です。
- デジタル技術産業法(2026年1月1日施行):ITやデジタル分野の産業全般を支える枠組みを定めた法律で、AI、半導体、データ関連の事業も対象になります。
- 個人データ保護法(2026年1月1日施行):ベトナム国内の企業だけでなく、ベトナム国民の個人データを処理する海外の企業にも適用されます。罰則も定められており、開発するシステムのデータの扱いにも影響します。
- AI法(2026年3月1日施行):ベトナム初のAI専用法です。AIの研究開発から提供・利用までを対象に、リスクに応じた管理や、重要な判断における人による監督などを求めています。
AI開発やデータを扱うサービスを手がける企業は、これらの法律への対応が開発体制やサービス設計にも関わってきます。
→ベトナム個人データ保護法とは?日本企業が対応すべきポイントを解説
→ 【法務】ベトナムAI法(人工知能法)とは?2026年施行と企業対応を解説
進出前には、以下のような項目を確認しておきましょう。
- 法人設立に必要な手続き(IRC・ERCなど)
- 事業内容に応じたライセンスや登録の要否
- 法人所得税の優遇措置を受けられる事業内容かどうか
- ソフトウェアやシステム開発に関する契約・知的財産権の管理
- 個人データ保護法・AI法・サイバーセキュリティ関連法令への対応
- 会計・税務・労務に関する制度の確認
これらの法制度は、施行後も細則の整備が続いています。進出計画の段階から、法務・会計・税務を含めた全体的な確認を行い、最新の情報を確認しながら進めることが、スムーズな事業開始につながります。
拠点選定のポイント
IT企業の進出先としては、ハノイ、ホーチミン市、ダナンが代表的です。
| 都市 | 特徴 | 向いている企業 |
| ハノイ | 日系IT企業や大学が多く、人材採用に強みがある | 日系企業との取引が中心の開発拠点 |
| ホーチミン市 | スタートアップや外資系IT企業が集積し、多様な人材を確保しやすい | 現地市場やグローバル案件も視野に入れる企業 |
| ダナン | 近年IT都市として発展しており、開発拠点として注目されている | 中規模の開発拠点を構えたい企業 |
拠点選定では、事業内容やターゲット市場、採用したい人材の技術領域、主要な取引先とのアクセスなどを総合的に比較し、自社に合ったエリアを選ぶことがポイントです。
人材採用・労務管理のポイント
IT業では、人材の確保が事業の成否を左右します。代表的な採用職種には、次のようなものがあります。
- システムエンジニア・プログラマー
- AIエンジニア
- ブリッジSE(日本語での橋渡し役)
- プロジェクトマネージャー
- QAエンジニア
- UI・UXデザイナー
IT人材は需要が高く、採用条件や待遇が市場の水準に合っていないと、応募が集まらなかったり、採用後に早期に離職されたりすることがあります。採用だけでなく、教育制度や評価制度、キャリアパスを整えることが、定着率の向上につながります。
人件費や採用費を含めた運営コストの考え方は、こちらの記事も参考にしてください。
→ ベトナム進出の費用はいくら?初期費用・運営コストの考え方を解説
ベトナムIT業進出でよくある失敗事例
進出目的が明確になっていない
「コストが安いから」という理由だけで拠点を作ると、拠点の役割(開発専任か、現地市場向けか)が定まらず、体制づくりや採用が中途半端になることがあります。
人材採用が計画どおりに進まない
採用条件や待遇が市場に合っていない、必要な技術領域の人材が集まらないなどの理由で、開発体制の立ち上げが遅れるケースがあります。
日本本社との連携体制が整っていない
日本側とベトナム側の情報共有が不足すると、認識の違いによる品質や納期の問題が発生します。ブリッジSEの配置、開発ルールやレビュー体制の整備が欠かせません。
法規制・税務の確認が不足している
法人所得税の優遇が受けられると想定していたが、事業内容が対象外だった、個人データ保護法への対応が後回しになったなど、事前確認の不足による問題が起きることがあります。
→ ベトナム進出でよくある失敗とは?進出前に知っておきたい現実と対策
ベトナムIT業進出前の確認ポイント
□ 拠点の役割と進出目的が明確になっているか
□ 進出形態(現地法人・ラボ型・提携)を検討しているか
□ 必要な人材と採用計画を立てているか
□ 開発体制・品質管理・日本との連携体制を設計しているか
□ 個人データ保護法・AI法などへの対応を確認しているか
□ 初期投資・運営コスト、税制優遇の適用可否を把握しているか
→ ベトナム進出チェックリスト/進出前に確認したいポイントを整理
→ ベトナム進出はどう判断すべきか?失敗を防ぐための考え方と判断軸
よくある質問(FAQ)
Q. ベトナムのIT人材は日本企業との開発経験がありますか?
多くのIT企業が日本向け開発の実績を持っており、日本語対応が可能なエンジニアやブリッジSEが在籍している企業もあります。ただし、経験の深さは企業や個人によって差があるため、採用時にはこれまでの案件や日本語レベルを確認することが大切です。
Q. ハノイとホーチミン市ではどちらがおすすめですか?
採用したい人材や事業内容によって異なります。ハノイは日系企業との取引実績が多く、ホーチミン市はスタートアップやグローバル企業との連携が活発です。前述の「拠点選定のポイント」もあわせてご確認ください。
Q. ベトナムでIT企業を設立するにはどのような手続きが必要ですか?
一般に、投資登録証明書(IRC)を取得したうえで、企業登録証明書(ERC)を取得する流れです。事業内容によっては、追加のライセンスや登録が必要になる場合もあります。期間や手順については、次の記事で詳しく解説しています。
→ ベトナム進出の流れをわかりやすく解説(会社設立までのステップ)
→ 【法務】ベトナム投資法ガイド政令96とは?外資規制と進出ルールを解説
関連するIT業分野別ガイド
ベトナムIT業と一口に言っても、オフショア開発、AI開発、システム開発、ソフトウェア開発、IT人材サービスなど、分野によって市場環境や事業展開のポイントは異なります。
以下では、主要分野ごとの進出ガイドを紹介しています。
- ベトナム開発拠点設立ガイド
- ベトナムAI開発進出ガイド
- ベトナム現地市場向けIT・SaaS進出ガイド
- ベトナムIT人材サービス進出ガイド
まとめ
ベトナムIT業への進出を成功させるためには、自社の事業内容や目的に合わせて、進出形態・人材・法規制を含めた計画を立てることが大切です。開発体制やビジネスモデルを自社の強みに合わせて構築することで、ベトナムでの継続的な事業展開につなげやすくなります。
MEIKEIでは、ベトナム進出を検討されている企業様に向けて、市場調査、進出計画の策定、法人設立、現地での事業展開、進出後の会計業務まで、企業様の状況に合わせたサポートを行っています。
ベトナム進出をご検討中の企業様は、自社に合った進出方法や事業展開について、お気軽にご相談ください。
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