ベトナム改正労働法(45/2019/QH14)における7つの労務ポイント

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本解説ページは、2019年11月20日に成立したベトナム改正労働法(45/2019/QH14)について解説いたします。

ベトナム改正労働法は2021年1月1日からの施行となるため、今年の2020年12月31日までは、現労働法(10/2012/QH13*2013年施行)が有効となります。現労働法と新労働法の内容は、所々違っておりますので、2021年1月1日以前の労務をご参考になさる場合は、現労働法(10/2012/QH13*2013年施行)の内容をご覧頂くか、別途当社へお問い合わせ下さいませ。

ベトナム改正労働法(45/2019/QH14)における7つの労務ポイント

1.  就業規則
2.  労働契約書
3.  試用期間
4.  労働契約書の解除
5.  労働時間/休憩時間
6.  休暇(週休・有給・慶弔休暇)
7.  賃金

1. 就業規則

ベトナムの現地法人にも就業規則がありまして、10人以上の従業員を雇用する場合は作成する必要があります。10人以下でも作成しておくことをお薦めいたします。(就業規則を作成した場合、発行日から10日以内に省級人民委員会の属するベトナム労働関連当局へ登録しなければなりません)
*内容に問題がある場合、(提出後7営業日以内に)提出先の当局から問題指摘の通知が入ります。
*特に問題指摘の通知がない場合、提出日から15日後に法的効力が発生します。

就業規則の記載必要事項 : 第118条

・  勤務時間,休憩時間
・  職場ルール
・  
労働安全衛生
・  職場におけるハラスメントの予防や防止、処分について
・  雇用者の財産/企業秘密/知的所有権の保護について
・  労働契約業務外を要求する場合の取決め
・  労働者の労働規律違反行為及び処分方法
・  物的責任
・  労働規律処分権限保有者について

2. 労働契約書

労働契約書は、ベトナム人社員との雇用契約のために締結するのはもちろんのこと、日本からベトナムへ駐在する「日本人駐在員や現地で雇用する現地採用社員(日本人)」との雇用契約のためにも用いるので、それぞれ作成が必要です。

労働契約は,書面により締結し, 2 通作成、そのうち従業員が 1 通を保持し,雇用者が 1 通を保持します。雇用期間が1ヶ月未満の一時的な採用の場合は、書面ではなく口頭での労働契約を締結することも認められています。

労働契約の種類 : 第20条

–  有期限労働契約 : 36 ヵ月以下の期間を定めての契約
–  無期限労働契約 : 期限を定めない契約


有期限契約書の更新契約回数は、(高齢従業員、外国人従業員、労働組合の幹部会構成員を除いた従業員に限り)1度のみ可能。1度更新契約を行うと、その後は無期限労働契約を締結しなければなりません。

 労働契約書の記載必要事項 : 第21条

・  雇用者の会社名、会社の法定代表者の氏名と住所
・  
従業員の氏名、生年月日、性別、居住地、身分証明書番号(IDカードやパスポートなど)
・  勤務地、業務内容
・  労働契約の締結期限
・  給与、給与支払方法と支払い時期、その他の手当など
・  昇給、昇級制度
・  勤務時間、休憩時間
・ 労働者に会社から供給する労働保護設備
       (製造業でしたら、現場で配布する安全靴や作業手袋、ヘルメットなど)
・   各種保険(社会保険、医療保険、失業保険)
・   従業員のレベルUPのための研修、教育、職業訓練

3. 試用期間

ベトナムでも雇用者と従業員の間において、就業するポジション、業務レベルによって、以下のような試用期間を設けています。

試用期間(第25条)

–  180日間以内 : 企業の管理職業務従事者
–  60日間以内 : 短期大学以上の専門技術を要する業務従者
–  30日間以内 : 中級の専門技術を要する職位の業務従事者
    (技術を有するワーカー、専門的業務を行う者)
–  6営業日:その他の業務従事者



試用期間中の賃金は、両者の合意によるが、少なくとも正規賃金の85%を下回らないこと。試用期間中においては、雇用者、従業員共に試用契約を(事前通知及び賠償の必要なく)放棄できます。

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4. 労働契約の解除

ベトナムでは雇用者、従業員共に、締結した労働契約を書きすることができますが、
事前通知に関するルールも細かく定められるのでご留意ください。

従業員が労働契約を解除する権利 : 第 35 条

会社への離職事前通知期限:

–  離職日の45日前 : 無期限労働契約締結中の従業員
–  離職日の30日前 : 有期限労働契約締結中の従業員(12ヶ月以上36ヶ月未満の契約)
–  離職日の3日前 : 有期限労働契約締結中の従業員 (12ヶ月未満の契約)


また以下の場合は、会社への事前通知は必要なく離職することができます。

・ (第29条に定める異動の規定を除いて) 労働契約上の業務や勤務地が保証されない。 
・ (第97条4項の沿わない)賃金未払い、支払い遅延があった。 
・  強制労働を強いられたり、暴力/侮辱行為、健康/人格/名誉を傷つける行為を受けた。
・  職場においてセクシャルハラスメントを受けた。 
・ (第138条1項の定めにより) 妊娠中の従業員が退職する場合。 
・  両者特段の合意がある場合を除いて、(第169条の定めにより)定年退職年齢に達した。
・  雇用者が従業員に対して、第16条1項の定めに沿った誠実な情報を提供せず、且つそれが労働契約の履行に影響を与える。

雇用者が労働契約を解除する権利 : 第 35 条

従業員への解雇事前通知期限:

解雇日の45日前 : 無期限労働契約締結中の従業員
解雇日の30日前 : 有期限労働契約締結中の従業員(12ヶ月以上36ヶ月未満の契約)
解雇日の3日前 : 有期限労働契約締結中の従業員(12ヶ月未満の契約)


 また以下の場合は、従業員への事前通知は必要なく解雇することができます。

・  従業員が労働契約書上の義務を遂行できない。 
・  従業員が病気や事故で、以下の期間過ぎても労働能力が回復できない。
     – 12カ月 (無期限労働契約締結中の場合)
     –  6カ月 (6ヶ月〜12ヵ月未満の有期労働契約締結中の場合)
     –  労働契約期間の2分の1を超過(12ヵ月未満の有期労働契約締結中の場合
・  自然災害や火災、危険を伴う疫病、権限を有する政府機関の要求に従った移転や事業縮小など、
(雇用者が問題克服に尽力したものの) 雇用者が現場縮小(=従業員数削減)の必要性が生じた場合。

・(第31条で定める)一時勤務停止期間の終了後15日を過ぎても出勤しない。 
・(第169条で定める)定年退職年齢に達した場合。(雇用者と従業員で特段の合意があればこの限りではない)
・  従業員が正当な理由なく、5営業日以上連続して無断欠勤した場合。(125条の第4項では 365日の間に20日間の無断欠勤も対象)
・  従業員が雇用者に対して、第16条2項の定めに沿った誠実な情報を提供せず、 且つそれが雇用者の採用に影響を与える場合。

5. 労働時間/休憩時間

ベトナムでも労働時間、深夜労働、残業、および休憩時間などについて細かな規定がございます。深夜労働や残業を設ける企業様もあるかと存じますが、政令で定める時間を超えないようご留意下さい。

基本労働時間 : 105条

基本の労働時間は、8時間/日、且つ40時間/週を超えてはいけません。

深夜労働 : 106条

22時〜翌朝6時の間の就業を、深夜労働となります。

残業 : 107条

1日の残業時間は、基本労働時間の50%を超えないことさらに年間の労働時間は 200時間を超えないこと。

*ただし、第3項で定める特定の業種や状況においては、年間残業時間か300時間に緩和されます。
(輸出目的とした繊維・縫製品、皮革製品、靴製品、電気・電子製品の製造、農業・林業・塩 業・水産物の加工業や、自然災害などで影響があった社会インフラ問題を改善するために残業が必要になる業務業種など)

休憩時間 : 109条

1日6時間以上労働する従業員は、少なくとも30分連続した休憩時間を付与される。
深夜労働の場合、少なくとも45分間連続した休憩時間が付与すること。

6. 休暇

週休 : 111条

従業員は、毎週少なくとも1日(24時間)の休息が付与されます。
また毎週定まった周期で休めない場合でも月平均、4日間の休暇を確保する必要があります。
(週休日をいつにするかは雇用者が決定できるが、就業規則に明記すること)

シフト交替時の間隔 : 110条

シフト制で労働に従事する労働者は、別のシフト業務に入る前には、少なくとも12時間以上の間隔を空けなければなりません。
(例えば、昼勤と夜勤の2シフト制として、昼勤したあと間を空けることなく夜班に入ることはできません)

年次有給休暇 : 113条

12ヵ月以上勤務した従業員は、年次有給休暇が最低12日間付与されます。
 - 未成年、障害を持つ労働者、危険業務従事者は、年間14日間、
 - 特に有害な業務・重労働へ従事する者は16日間

勤務期間が12ヵ月未満の従業員の年次有給休暇は、労働期間に比例按分にて算定して付与することとします。 (平均1ヶ月に1日付与)

雇用者は、年次休暇日程表の作成の義務があり、事前に労働者に共有する必要があります。
有給取得の日程は、雇用者と従業員の合意に寄って、一年で複数回に分けて、また最大3年分を一度にまとめて取得することもできます。

年次有給休暇中の従業員が、陸路・鉄道・水路による往復の移動にかかる日数かが2日を超える場合、 3日目からは年次有給休暇とは別に移動期間として算定します(ただし、年1度の休暇に限る)

退職や失業などの事由により、未取得の有給休暇があった場合(消化していない場合)賃金として精算することができます。

勤務年数による有給休暇の増加 : 113条

同じ雇用者に 5年間勤務する毎に、有給休暇を1日ずつ追加付与しなければなりません。
(10年勤務すると、12日間の有給休暇に追加でさらに2日間付与)

慶弔休暇 : 115条 *有給

雇用者は、以下の場合において、有給としての休暇を取ることができます。

–  3日間:本人の結婚
–  1日間:実子/養子結婚
–  3日間:配偶者/実父母/養父母/配偶者の実父母・養父母/実子・養子の死去

慶弔休暇 : 115条 *無給

雇用者は、以下の場合において、無給の休暇を取ることができます。 

–  1日間:本人の祖父母/兄弟姉妹の死去、父母/兄弟姉妹の結婚

祝日および正月休暇 : 112条  

以下の祝日/正月休暇において、従業員は(有給の)休暇を取ることができます。   
 
1日間 : 新暦の正月 (1月1日元旦)  
5日間 : 旧暦の正月(テト正月) 
1日間 : 戦勝記念日 (新暦4月30日の南部解放記念日)  
1日間 : 国際メーデー (新暦5月1日)   
2日間 : 建国記念日 (新暦9月2日とその前後の1日間)  
1日間 : フン王の命日 (旧暦3月10日)  

7. 賃金

深夜労働、残業を行なった従業員に対しては、割増賃金を支払う義務があります。割増率は以下の通りですので、ご参考としてください。

Gross給与(額面給与)及びNet給与(手取り給与)の計算方法 : 

【計算式】 Net給与 = Gross給与 ー(個人負担+個人負担の社会保険料)

社会保険の計算方法 : 


社会保険料の負担率は、以下のとおり(* 保険料算定基礎額の上限:2600万VND)

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*ベトナム人従業員と外国人従業員の社会保険料項目、負担料率は異なります。
上記負担料率は、ベトナム人従業員向けです。

【計算式】社会保険料 = Gross給与 × 社会保険負担料率 

残業代 : 第98条 

残業代の割増率は、以下の通りです。

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* 基本労働時間 8時〜17時は一例で、雇用者が自由に設定できます。
* 本法98条および通達23/2015 /TT-BLĐTBXHを参照

休業中の賃金: 第99条

–  雇用者の故意過失などの事由によって、従業員が休業しければならなくなった場合、雇用者は労働契約上の賃金の全額を支払わなければなりません

–  従業員の故意過失などの事由によって、従業員が休業しければならなくなった場合、従業員本人は賃金を得ることができない。ただし、この影響を受け、ほかの従業員も同様に休業する場合は、両当事者の合意によって賃金を取決めるものの、その所在地域の最低賃金を下回ってはなりません

–  雇用者の故意過失などよらない自然災害、疫病、インフラの問題、政府機関の要求及び雇用者の経済的事由などにより休業する場合は、次のように休業賃金を取り決めること。

: 休業期間が14日以内 :   その所在地域の最低賃金以上の賃金を支払うこと。
: 休業期間が14日以上 :   14日間分の賃金は最低賃金以上を保証し、それ以上の日数は両者合意によって取決めること。

賃金からの控除 : 第102条 

従業員が、本法第 129 条(損害賠償)の定めにより、雇用者が所有する道具・設備及び財産など毀損した際、損害を賠償する場合に限り、労働者の賃金からその賠償額を控除することができます。

ただし、雇用者は従業員に対して控除理由を明確に説明する義務があると共に、控除金額も、社会保険料と個人所得税を天引きした手取り給与(NET給与)の30%を超えることは認められません


以上、ベトナム改正労働法 : 45/2019/QH14(2021年1月1日施行 )について、ご説明させて頂きました。2013年施行の労働法(10/2012/QH13)に比べて、基本はその内容を受け継いでいるものの、法人経営に従事する管理者に対する試用期間の追加、有期限雇用契約の定義変更、そのほか若干の変更が入っておりますので、ぜひご留意いただければと思います。

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