2025年 ベトナム個人所得税法改正案の全貌
2025年7月、ベトナム財務省は個人所得税法の改正案を正式に発表、現在国民や事業者からの意見募集を実施しています。
この改正案は、ベトナムの所得税制度の根幹に関わる重要な見直しであり、国の税制をより公平かつ効率的にすることを目的としています。
本稿では、改正案の背景から具体的な内容、メリット・デメリットの詳細、さらには将来の展望について、体系的かつ分かりやすく解説いたします。
1.改正案策定の背景と必要性
ベトナムは近年、急速な経済成長と物価上昇(インフレ)が進み、国民の所得構造や生活費の実態が大きく変化してきました。
現行の個人所得税法においては、控除額の基準が経済成長や物価変動に十分追いついておらず、実質的に控除水準が低下した結果、特に中低所得層において課税負担が増加しているとの指摘が多くなっています。
また、現行の累進課税表は7段階に細かく区分されている一方で、所得階級ごとの幅が狭く、税率計算が複雑で納税者の理解が難しいという課題もありました。これにより、税務当局も含めた税制運用の効率性が低下している面がありました。
こうした事情を背景に、ベトナム政府は税制の公平性向上と税務処理の簡便化を目指して、今回の包括的な改正案の策定に踏み切りました。
2.改正案の詳細内容
(1)控除額の引き上げ
改正案は基礎控除および扶養控除の2つを大幅に引き上げることを提案しています。
項目 | 現行(月額) | 改正案1(月額) | 改正案2(月額) |
---|---|---|---|
基礎控除 | 11,000,000 VND | 13,300,000 VND | 15,500,000 VND |
扶養控除 | 4,400,000 VND/人 | 5,300,000 VND/人 | 6,200,000 VND/人 |
この引き上げにより、納税者が実際に課税される所得額は抑えられ、特に子育て世帯や扶養家族が多い家庭にとっては経済的な負担が軽減される見込みです。
(2)累進課税表の再構築
累進課税表の段階数を7段階から5段階に削減し、各所得区分の幅を広げることで、計算の複雑さを解消し、納税者の理解を助けることが狙いです。
区分 | 現行法の課税所得区分(VND) | 現行法 税率(%) | 改正案1の課税所得区分(VND) | 改正案1 税率(%) | 改正案2の課税所得区分(VND) | 改正案2 税率(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ~5,000,000 | 5 | ~10,000,000 | 5 | ~10,000,000 | 5 |
2 | 5,000,001~10,000,000 | 10 | 10,000,001~30,000,000 | 15 | 10,000,001~30,000,000 | 15 |
3 | 10,000,001~18,000,000 | 15 | 30,000,001~50,000,000 | 25 | 30,000,001~60,000,000 | 25 |
4 | 18,000,001~32,000,000 | 20 | 50,000,001~80,000,000 | 30 | 60,000,001~100,000,000 | 30 |
5 | 32,000,001~52,000,000 | 25 | 80,000,001~ | 35 | 100,000,001~ | 35 |
6 | 52,000,001~80,000,000 | 30 | — | — | — | — |
7 | 80,000,001~ | 35 | — | — | — | — |
改正案1と改正案2は高所得者層の課税範囲や税率設定に一部差異がありますが、いずれも5段階にまとめることで制度全体のシンプル化を図っています。
3.改正案のメリット
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納税者の負担軽減
基礎控除と扶養控除の増額により、実質的に多くの納税者の課税所得が減り、税負担の軽減につながります。特に扶養家族の多い家庭や中低所得層にとっては生活の支えとなるでしょう。 -
税務の透明性と簡素化
税率区分を減らし、区分の幅を広げることで、納税者が自らの税負担を把握しやすくなるほか、税務当局の処理効率も向上します。 -
経済・社会情勢に即した制度設計
インフレや物価上昇に対応した控除額の見直しにより、税制の公平性が保たれやすくなります。
4.改正案のデメリット・懸念点
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国家財政収入の減少リスク
控除額の引き上げや税率区分の単純化による減税効果は、国家の税収減少につながる懸念があります。財政バランスの維持が課題となるでしょう。 -
高所得者への課税強化の不足
改正案の内容によっては、高所得者の税負担が十分に強化されていないとの指摘があり、所得格差是正の観点からも議論が必要です。 -
実務面での負担
改正内容の実施にあたっては、税務システムの改修、担当者の研修、納税者への周知活動など、多くの準備が求められます。
5.今後の展望
現在、改正案は国民や関係者からの意見募集を経て、2025年末までに国会での審議・承認が予定されています。最終的な法案の成立後は、施行日や具体的な運用ルールが決定され、順次実施に移されます。
納税者や企業は改正内容を注視し、必要に応じて専門家の助言を受けながら、対応準備を進めることが重要です。
6.まとめ
2025年の個人所得税法改正案は、控除額の引き上げと累進課税表の簡素化を通じて、ベトナムの所得税制度の公平性・透明性・効率性を高めることを目指した大規模な改革です。
公式文書はベトナム政府のウェブサイトや財務省ポータルで公開されているため、関心のある方は直接原文を確認し、改正内容を理解しておくことが推奨されます。
これにより、多くの納税者が税負担の適正化に恩恵を受け、また税務行政の効率化も期待されている一方で、財政への影響や公平性の維持といった課題も存在しています。今後の議論と施行過程を注意深く見守る必要があります。
公式文書と確認方法
本改正案の法的根拠は、2025年7月17日付の以下の文書にあります。
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個人所得税法(改正案)草案(Dự thảo Luật Thuế thu nhập cá nhân)
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本人・扶養控除額の調整に関する決議案(Nghị quyết điều chỉnh mức giảm trừ gia cảnh)
これらの文書は、ベトナム政府の公式サイト(https://chinhphu.vn/)や財務省公式ウェブサイト(https://mof.gov.vn/)にて公開されており、閲覧・確認が可能です。
以上、「2025年 ベトナム個人所得税法改正案」について、ご紹介いたしました。
今後、本改正案に関して新たな展開があれば、当ウェブサイトでも解説していきます。
本記事に関するご質問などございましたら、是非お気軽にお問い合わせくださいませ。