近年、ベトナムでは環境規制の強化が急速に進んでおり、その中でも企業への影響が大きいのが「EPR(拡大生産者責任)」制度です。
2026年には、この制度を具体的に運用するための政令110/2026/NĐ-CPが公布され、企業に求められるリサイクル義務や対応方法が明確化されました。
本記事では、政令110のポイントを整理しつつ、日本企業が押さえるべき実務対応について解説します。
EPR制度とは?(概要を知りたい方へ)
EPRとは、企業が製品の製造・販売だけでなく、使用後の回収・リサイクルまで責任を負う制度です。
ベトナムでもすでに導入されていましたが、制度の背景や全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。
ベトナムEPR制度の概要はこちら
※本記事では、最新の制度変更と実務対応に焦点を当てています。
政令110/2026の位置づけ
政令110は、EPR制度を実際に運用するための具体ルールを定めたものです。
これにより、
- 製品ごとのリサイクル率
- 対応方法(自社・外注・PROなど)
- 未対応時の措置
といった実務上の重要ポイントが明確になりました。
従来は概念的だったEPR制度が、本政令によって企業が対応すべき義務として本格的に機能し始めたといえます。
政令110で何が変わったのか
主な変更点を整理すると以下の通りです。
| 項目 | 内容 | 実務への影響 |
| リサイクル率 | 製品ごとに最低リサイクル率を設定 | 未達時はコスト増 |
| 対象企業 | 製造・輸入企業を明確化 | 日系企業も対象 |
| 対応方法 | 複数の履行手段を提示 | 戦略判断が必要 |
| 拠出金制度 | 未実施時は基金へ支払い | 実質的な負担増 |
| 報告義務 | 実施状況の報告が必要 | 管理体制の整備が必要 |
【正式抜粋】主なリサイクル率(政令110より)
リサイクル率とは、企業が市場に供給した製品・包装のうち、一定割合を回収・再資源化することを義務付ける指標です。
(リサイクル率 = 回収・リサイクル量 ÷ 市場投入量)
政令110の附属書では、製品ごとにリサイクル率が細かく規定されています。
実務上影響の大きい主要項目を抜粋すると以下の通りです。
■ 主なリサイクル率(抜粋)
| 分類 | 製品 | リサイクル率 |
|
包装 |
紙・段ボール |
約20% |
| 包装 | プラスチック(PET等) | 約15〜22% |
| 包装 | ガラス | 約15% |
| バッテリー | 鉛蓄電池 | 約12% |
| バッテリー | その他バッテリー | 約8% |
| バッテリー | EV用(車載リチウム等) | 0% |
| タイヤ | ゴムタイヤ・チューブ | 約5% |
| 電子機器 | 家電製品 | 約5〜15% |
| 潤滑剤 | オイル・グリース等 | 回収・再生義務あり(割合設定あり) |
※詳細な数値は製品・材質ごとに附属書で個別に規定されています。
リサイクル率から見える重要ポイント
この表から読み取れる重要なポイントは、「製品ごとに負担が大きく異なる」という点です。
例えば、
- プラスチック包装:15〜22%
- 家電製品:5〜15%
- タイヤ:5%
といったように、業界ごとに求められる対応レベルは大きく異なります。
つまり、EPR対応は単なる環境対応ではなく、業界別の戦略課題といえます。
【重要】EVバッテリーはリサイクル率0%(暫定)
今回の政令で特に注目すべきなのが、EV(電気自動車)用バッテリーの扱いです。
リサイクル率は「0%」と設定されていますが、これは規制緩和ではありません。
なぜ「0%」なのか
- EV市場がまだ初期段階で、廃棄バッテリーが少ない
- 回収・リサイクルインフラが未整備
- 高度な処理技術が必要
こうした背景から、現時点では義務化が困難なための暫定措置とされています。
実務的な理解
この「0%」は「免除」ではなく、あくまで猶予期間です。
- 現在:義務なし
- 将来:規制強化の可能性大
したがって、EV関連企業にとっては「対応不要」ではなく、
中長期的な対応準備が必要な領域といえます。
企業に求められる対応方法
企業は、以下の方法でEPR義務を履行する必要があります。
① 自社で回収・リサイクル
コントロールは可能ですが、コストと体制構築の負担が大きくなります。
② リサイクル業者への委託
現実的な選択肢ですが、業者選定と管理が重要です。
③ PRO(共同スキーム)への参加
複数企業で対応する方式で、効率的な運用が可能です。
未対応の場合のリスク
EPR制度は義務であるため、対応しない場合には以下のリスクがあります。
- 環境基金への拠出(追加コスト)
- 行政指導・罰則
- ESG評価の低下
特にグローバル企業との取引においては、EPR対応が前提条件となる可能性もあります。
日本企業への実務影響
政令110は、日本企業にも大きな影響を与えます。
コスト構造の変化
リサイクル対応により、新たなコストが発生します。
製品設計への影響
リサイクルしやすい素材への変更など、設計段階からの対応が求められます。
EV分野の中長期リスク
現時点では「0%」ですが、将来的な規制強化に備える必要があります。
現地ネットワークの重要性
リサイクル業者やPROとの連携が不可欠となります。
特に、ベトナムで製品を販売する日本企業にとっては、EPR対応はコストだけでなく事業継続にも関わる重要な経営課題となります。
今後の対応ポイント
実務対応としては、以下の点が重要です。
- 自社製品の対象可否の確認
- リサイクル率の把握
- 対応方法の選定
- コスト試算
- 社内体制の整備
まとめ
政令110/2026の施行により、ベトナムのEPR制度は本格的な運用フェーズに入りました。リサイクル率の明確化により、企業には具体的な対応が求められる段階へと移行しています。
また、EVバッテリーのように一部では暫定的な措置が取られているものの、制度全体としては段階的な強化が前提となっており、今後さらなる規制強化が見込まれます。
そのため、企業としては制度の理解にとどまらず、実務対応を見据えた準備を進めることが重要です。早期に対応方針を整理することが、将来的なコストやリスクの最小化につながります。
ベトナム進出・EPR対応に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。
貴社の製品がEPR対象となるかの確認や、対応方法の検討についても個別にサポート可能です。




