これまで、日本企業にとってベトナム進出の最大の魅力は「人件費の安さ」でした。
中国に代わる生産拠点として、多くの企業がコスト削減を目的に進出してきたのは事実です。
製造拠点としての基礎的な優位性は、現在も変わらず存在しています。一方で、今のベトナムをその一点だけで捉えるのは、ややもったいない見方かもしれません。
現在のベトナムは、FTA(自由貿易協定)を背景に、複数の市場へ展開できる“戦略拠点”としての性格を強めています。
変わりつつある進出の考え方
これまでの海外進出は、
- 生産コストを抑える
- 特定の市場に供給する
といった比較的シンプルな構造でした。
一方で現在は、
「どこで作るか」が「どこに有利に売れるか」を左右する時代になっています。
その鍵となるのがFTAです。
FTAとは何か(実務的な意味)
FTAとは、国同士で関税の引き下げや撤廃を行う取り決めです。
これにより、
- 同じ製品であっても
- 生産拠点の所在によって
- 輸出時の関税条件が変わる
という違いが生まれます。
つまり、生産拠点の選定が、そのまま販売戦略に直結するということです。
ベトナムが持つFTAネットワーク
ベトナムの大きな特徴は、このFTAの広がりにあります。
代表的な協定としては、以下が挙げられます。
■ CPTPP
日本・カナダ・オーストラリアなどが参加する枠組みで、アジア太平洋地域への輸出に有利に働きます。
■ EVFTA
EUとの間で段階的な関税撤廃が進められており、欧州市場へのアクセスを強化します。
■ RCEP
日本・中国・韓国・ASEANなどを含む広域経済圏で、サプライチェーン全体での最適化が可能です。
■ ASEAN関連FTA
ASEAN域内に加え、中国・韓国などとの枠組みも整備されており、アジア市場全体への展開を支えています。
これらのネットワークにより、
ベトナムで生産することで、複数市場に対して関税優遇を活用できる可能性が生まれます。
「一つの拠点」で「複数の市場」へ
従来は、
- ベトナムで生産 → 日本または現地市場へ販売
という構造が一般的でしたが、現在は、
- ベトナムで生産 → 日本・EU・ASEANなど複数市場へ輸出
という展開が現実的な選択肢となっています。
これは、一つの拠点から複数の販路を持つことができる構造を意味します。
中東市場という新たな広がり
さらに近年では、中東市場への接続も進みつつあります。
2026年、ベトナム商工省は、輸出入分野における新たな行政手続(Decision 1090/QĐ-BCT)を公表し、UAE向け輸出に対応した原産地証明(C/O)の手続を新設しました。
これにより、ベトナムから中東市場への輸出においても、FTA活用の実務環境が整備されつつある状況です。
FTA活用には“設計”が必要
一方で、FTAは自動的に適用されるものではありません。
- 原産地ルール(現地生産比率など)
- 原産地証明(C/O)の取得
- 協定ごとの個別要件
といった条件を満たす必要があります。
そのため、進出後ではなく、進出前から活用を前提とした設計が重要になります。
まとめ
現在のベトナムは、従来のような単なる生産拠点という位置づけから、
FTAネットワークを活用し、複数市場へ展開できる戦略拠点へと確実に変化しています。
日本・EU・ASEANに加え、近年では中東市場への接続も進み、
一つの拠点から複数の市場へアクセスできる環境が整いつつあります。
これは、これまでの海外展開にはなかった大きな特徴です。
一方で、こうしたメリットは拠点を持つだけで自動的に得られるものではありません。
原産地ルールや証明手続など、FTA特有の要件を踏まえたうえで、
どの市場に向けて、どのように製品を供給していくのかを事前に設計することが重要になります。
その意味で、これからのベトナム進出は、単に「どこで作るか」を決めるのではなく、
「どの市場へ、どのように展開していくか」を起点に考える戦略的な意思決定へと変わっています。
ベトナムを単なる生産拠点としてではなく、“世界とつながる拠点”としてどう活用するか。この視点を持つことで、進出の可能性はより大きく広がっていきます。
本内容に関するご質問や詳細なご相談、ベトナム進出や現地法人の税務対応についてご不明な点等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
各種サービス内容はこちら






