ベトナムにおける外国人労働者の「社内異動」勤務形態と労働許可証をめぐる最新動向(2025 年)
ベトナムで事業を展開する企業にとって、外国人労働者の雇用管理は法令遵守と税務上の取り扱いの両面で重要です。最近、弊社にもよくお問合せ頂く問題、「社内異動(Internal Transfer)勤務形態に関する労働許可証の取得と現地支給給与の取扱い」について、最新の動向を整理し、解説致します。
■ 社内異動勤務形態(社内転勤型)とは?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 英語名称 | Internal Transfer / Intra-Company Transfer |
| 対象者 | 外国企業(本社や海外子会社)からベトナム法人に派遣される従業員 *外国企業(本社や海外子会社)で12カ月以上継続勤務してる人材であること |
| 労働契約 | 派遣元企業との契約が基本 |
| 労働許可証 | 「社内異動」勤務形態で取得する労働許可証(Work Permit) |
| 給与 | 派遣元企業から給与が支給される場合と、ベトナム法人が支給する場合がある |
| 社会保険 | ベトナムの社会保険加入する必要なし |
ベトナム法人で勤務する外国人のうち、ベトナム法人で新たに雇用されたのではなく、派遣元企業(本社や海外子会社)で12か月以上継続勤務している社員(プロパー社員)が、ベトナム法人へ出向・派遣される場合に申請できる勤務形態を、**「社内異動型(Internal Transfer)*社内転勤型」**といいます。
また、ベトナムに進出している日系企業で勤務する駐在員の多くは、**「社内異動型」**の勤務形態で現地に派遣されています。その理由としては、日本本社やグループ会社で長年勤務し、会社文化や経営方針を理解しているプロパー社員を派遣することで、技術や製造ノウハウを現地社員にスムーズに移転ことができる点が挙げられます。加えて、社内異動型の勤務形態で労働許可証を取得すると、現地の社会保険加入が免除されるため、コスト面でのメリットも存在します。
一方で、「社内異動型」ではない勤務形態として、ベトナム法人の運営のために、新たに外部から招聘雇用される方向けの勤務形態として、**ベトナム法人と直接労働契約を締結する形態(直接雇用型)**も存在します。
■ 背景:社内異動型の法人税上のリスク
本稿で取り上げる問題点は、「社内異動型」で勤務する駐在員が現地法人から受給する「給与」の取り扱いです。前述のとおり、ベトナムでは「社内異動型」により労働許可証を取得して勤務する駐在員が特に多く見られますが、駐在員の方々も現地で生活する以上、現地手当として現地法人から給与の支給を受けるケースがほとんどです、
ベトナム企業が外国人従業員を「社内異動」勤務形態で受け入れ、労働許可証を取得して給与を支払っている場合、政令 219/2025/ND-CP の趣旨に照らすと、法令上不適合とみなされる可能性があります。
具体的には、支払った給与が法人税上の損金として認められないリスクがあり、経費計上や税務申告に影響を及ぼす可能性があります。そのため、これまでの慣行として、給与を法人税上の損金として算入するには、外国人従業員の勤務形態を「労働契約の履行(直接雇用型)」に切り替える必要がありました。
■ 新たな草案:任命状がある場合は損金算入を認める方向へ
前述の課題やリスクを解消するための新たな動きがありました。
この度、財務省が公表した**法人税法施行に関する政令(草案)**では、以下の新ルールが盛り込まれました。
外国企業からベトナムへ派遣される社内異動者について、
給与・賞与の金額および支給条件が「任命状(派遣文書)」に明記されている場合、
ベトナム企業が当該外国人と労働契約を締結していなくても、
給与・賞与を法人税の損金算入として認める
このため、法人税の観点では、「社内異動」形態のままでも給与費用が損金算入できる可能性が高まっています。
※この場合、労働契約を結ばないため、従来どおり 「社内異動」勤務形態の労働許可証 を維持できる見込みです。
■ 公布・施行時期
現時点(2025年11月)では、施行規則の正式公布日は未定ですが、多くの外資系業に関連する問題であるため、近々に公布に向けた動きがあると見られています。

■ 企業側の対応選択肢
現状を踏まえ、現地進出企業としては次のような対応が考えられます。
選択肢 1:政令公布を待つ
- 公布後に内容を確認し、必要に応じて勤務形態の変更(「労働契約の履行」への切替)を検討
- 法令の正式な解釈や実務上の運用が明確になるまでリスクを最小化
選択肢 2:現時点で勤務形態を変更する
- 「労働契約の履行」形態の労働許可証を早期に申請
- 同時に、社会保険・健康保険加入手続きを進め、法令遵守を強化
- 将来的な税務上のトラブルを未然に防ぐ
■ まとめ
参考:
法人税法施行政令(草案)
2025 年法人税法
政令 219/2025/ND-CP
今回の動向は、外国人従業員の社内異動形態を採用する企業にとって重要な情報です。任命状を活用することで、従来リスクとされていた給与費用の損金算入を維持できる可能性がある一方、施行規則の正式公布までは不確実性が残ります。企業としては、最新情報の確認と適切な手続きの実施が不可欠です。
今後、本件に関する新たな関連法令や運用ルールが公表された場合には、当サイトにて随時更新情報を掲載してまいります。
ご不明な点が御座いましたら、お気軽にお問合せくださいませ。




