【環境】ベトナムEPR制度の全体像(環境保護法2020・政令08・政令05・通達02)概要

Hoi An

2024年開始 ベトナムEPR制度の全体像

― 環境保護法から政令・通達までを体系的に読み解く ―

2024年から本格的に運用が始まったベトナムのEPR(拡大生産者責任)制度は、単なる環境負担金制度ではありません。その本質は、「製品を市場に供給する企業の責任範囲を、廃棄段階まで拡張する」という制度的転換にあります。これは環境規制の追加ではなく、企業責任の構造そのものを再定義する制度改革です。

これまで廃棄物処理は行政の責任とされる部分が大きく、企業は製品を販売した時点で責任を終えるという構造が一般的でした。しかし急速な経済成長と都市化の進展により、廃棄物の増加は社会課題となり、従来型の行政主導モデルでは持続可能性が担保できなくなりました。

そこで導入されたのがEPR制度です。本制度は単独の法令で成立しているのではなく、理念を示す法律、義務を具体化する政令、制度を補強する改正政令、そして実務細則を定める通達という段階的構造によって構築されています。

制度の出発点 ― 環境保護法2020

EPR制度の法的基盤となったのが、2020年に制定された環境保護法です。この法律は、ベトナムの環境政策を「廃棄物処理中心型」から「循環経済志向型」へと転換させました。

この法律で初めて明確にされたのは、製造者および輸入者が、自ら市場に供給した製品・包装について廃棄段階まで責任を負うという原則です。販売後の製品も企業の責任範囲に含まれるという考え方が、ここで法文化されました。

もっとも、この段階では制度はまだ枠組みにとどまっていました。対象製品、リサイクル率、計算方法、拠出金額などの具体的な内容は定められておらず、それらは後続の政令で規定されることになります。

環境保護法は、EPR制度の思想と法的根拠を確立した出発点でした。

ベトナムEPR制度の中核を定める「政令08」とは

2024年から本格運用が始まったベトナムのEPR(拡大生産者責任)制度。その実務の中心となっているのが、2022年に公布された 政令08(08/2022/NĐ-CP) です。

環境保護法2020が「製造者・輸入者はリサイクル責任を負う」という原則を示したのに対し、政令08はその原則を実際に運用できるレベルまで具体化した実施規則です。ここで重要なのは、政令08によって「製品を市場に投入した時点で、将来の廃棄コストが法的に内包される」という構造が明確になった点です。
すなわち、製品価格の中に“将来の廃棄責任”が組み込まれる時代に入ったとも言えます。

ここでは、政令08が定めるリサイクル責任の具体的内容を整理します。

(1)対象製品の明確化 ― 何がEPRの対象になるのか

政令08では、EPRの対象となる製品・包装を附属書で明確に列挙しています。

主な対象品目は以下のとおりです。

区分 主な対象品目
電池類 バッテリー、蓄電池
潤滑関連 潤滑油
ゴム製品 タイヤ、チューブ
電気電子製品 家電、電子機器
包装材 食品包装、化粧品包装、医薬品包装、農業資材包装、洗剤包装、セメント袋など

重要なのは、「製造」または「輸入」してベトナム市場に投入した事業者が責任主体になるという点です。

つまり、販売会社や単なる流通業者は原則対象外ですが、輸入名義人であれば責任主体となる可能性があります。

(2)義務開始のロードマップ

政令08では、対象製品ごとに段階的な開始スケジュールが設定されています。

開始時期 対象品目
2024年1月~ 潤滑油、タイヤ・チューブ、電池、各種包装材
2025年1月~ 電気・電子製品
2027年1月~ 自動車・輸送機器関連

この段階導入は、企業側の準備期間を確保するための措置ですが、2024年から既に実務義務が発生している品目も多く、対応は待ったなしの状況です。

(3)義務リサイクル率の設定

政令08で最も実務的に重要なのが「義務リサイクル率」の設定です。

これは、

市場投入量 × 義務リサイクル率 = その年に履行すべきリサイクル量

という考え方です。

例えば潤滑油であれば、一定の初期率(例:15%前後)が設定されており、その数量分の回収・再資源化が求められます。

主な初期リサイクル率(参考)

品目 初期義務率(目安)
潤滑油 約15%
タイヤ・チューブ 約5%
プラスチック包装 約10~22%
電池類 約8~12%

※実際の数値は附属書で品目別に細かく規定されています。
※率は3年ごとに見直され、段階的に引き上げられる可能性があります。

(4)リサイクルの「質」も規定されている

政令08は単に「回収量」だけを求めているわけではありません。

重要なのは、リサイクルの仕様(質的基準)も規定されているという点です。

たとえば

  • 回収物から一定割合以上の有価素材を再資源化すること
  • 単なる焼却ではなく、材料再生や再利用を優先すること
  • 再生原料として実際に循環利用可能な状態にすること

つまり、形式的な回収ではなく、実質的な資源循環が求められています。

(5)義務の履行方法(3つの選択肢)

企業は以下のいずれかの方法で義務を履行できます。

① 自主回収・自主リサイクル

自社または認可業者を通じて回収・再資源化を実施。

② 共同履行(第三者活用)

他企業やリサイクル団体と連携し義務量を充足。

③ 環境保護基金への拠出(代替履行)

自主リサイクルを行わない場合、政府指定単価(Fs)に基づき拠出金を支払う。

この「財政的拠出」という仕組みがあることで、実務的な柔軟性が確保されています。

(6)超過履行の繰越制度

政令08では、義務率を超えてリサイクルした場合、その超過分を翌年度へ繰越できる仕組みも定められています。

これは、積極的な循環投資を行う企業へのインセンティブとして設計されています。

(7)義務免除・対象外規定

以下の場合は義務対象外となるケースがあります。

  • 輸出専用製品
  • 研究用・試験用製品
  • 売上規模が一定以下の小規模事業者(包装のみ)

この点は実務判断上重要であり、自社が対象かどうかの確認が不可欠です。

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制度の補強 ― 政令05/2025/NĐ-CP

制度の本格運用が始まる中で、対象範囲の解釈や義務算定の実務運用に関して一定の整理が必要となりました。これを受けて公布されたのが政令05です。

政令05は、EPR制度の基本構造を変更するものではありません。政令08で定められた枠組みを維持しつつ、実務上の不明確な部分を補強し、制度の安定運用を図ることを目的とした改正です。

主なポイントは次のとおりです。

  • 責任主体の明確化
    製造者・輸入者に加え、製品品質や表示に責任を負う主体の整理が行われ、OEMや委託製造など複雑な取引形態における責任帰属が明確化されました。
  • 小規模事業者への配慮
    年間売上が一定規模以下の事業者(例:包装関連で一定売上基準未満)は義務対象外となるなど、過度な負担を回避する仕組みが整理されました。
  • 実績ベースでの義務評価の明確化
    義務量の算定は前年の市場投入実績を基礎とすることが明確にされ、企業は販売データに基づいて翌年度の履行義務を計算する仕組みとなっています。
  • 申告・納付手続の整理
    拠出金の申告および納付スケジュールが制度的に整理され、履行管理の透明性が高まりました。

政令05は、制度の方向転換ではなく「制度の精緻化」と位置づけることができます。
EPR制度が一過性の政策ではなく、実務に根差した恒常的な仕組みとして定着していく過程にあることを示す改正といえるでしょう。

実務の核心 ― 通達02/2022/TT-BTNMT

制度を現実の業務に落とし込む上で、実務上最も重要なのがこの通達です。

通達02では、拠出金額の具体的な計算方法が定められています。政令08で示された義務を、実際の数値として算出できるようにしたのがこの規定です。

基本式は以下の通りです。

拠出額 = 市場投入数量 × 義務リサイクル率 × Fs

ここでの「Fs」とは、政府が品目ごとに定めた標準リサイクル単価を指します。

重要なのは、

・市場価格ではない
・企業が自由に決められない
・政府が定める基準単価である

という点です。

このFsは、回収、輸送、選別、再資源化までを想定した標準コストを基礎に設定されています。つまり、国家が代替的にリサイクルを実施する場合に必要と見込まれる社会的費用を反映したものです。

この通達によって初めて、企業は具体的な負担額を算出できるようになりました。同時に、拠出金が「任意の支払い」ではなく、法令に基づく義務履行の一形態であることが明確になったのです。

また、この計算式は前年の市場投入量を基礎とするため、企業内部の販売データ管理体制が極めて重要になります。投入量の把握が不正確であれば、義務量も拠出額も正しく算出できません。EPR制度が単なる環境問題ではなく、内部統制や経営管理の問題でもある理由はここにあります。

まとめ

ベトナムEPR制度は、単なる環境義務の追加ではありません。それは「製品のライフサイクル全体を企業責任の範囲に含める」という、責任構造の再設計です。

これまで企業は、製品を市場に供給した時点で責任を終えることができました。しかし今後は、廃棄段階までを見据えた設計・管理・コスト認識が前提となります。

拠出金は制度の一部に過ぎません。本質は、企業が社会的コストをどのように内部化するかという問いにあります。EPRは法令対応であると同時に、企業の持続可能性に対する姿勢を問う制度でもあります。制度の背景を理解することは、単なる義務履行を超え、企業戦略そのものを再設計する出発点となります。

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