新たな企業会計制度 通達99/2025/TT-BTC号(2026年1月1日以降適用)概要

新たな企業会計制度の概要について

2025年10月27日付で、ベトナム財務省より「通達99/2025/TT-BTC 企業会計指針」が正式に公布されました。本通達は、2026年1月1日以降の会計処理・財務報告に適用される企業会計制度の新しいルールを定めたもので、企業の内部統制の強化から勘定科目体系の見直し、財務諸表の表示方法の変更まで、幅広い領域に影響を与える大きな制度改正となります。

今回の改正は、ベトナム企業の会計実務を国際基準(IFRS)により近づけ、透明性・信頼性を高めることを目的としており、2014年通達200号等の主要通達が廃止されるため、外資系企業やグループ企業にとっても重要な内容が多く含まれています。

本記事では、通達99/2025/TT-BTCの概要と、企業が押さえておくべき主な改正ポイントを分かりやすくまとめています。ベトナムで事業を展開する企業・会計担当者の方は、2026年の制度切り替えに向けて早めの準備が必要です。

通達99/2025/TT-BTCの概要

  • 名前:Circular No. 99/2025/TT-BTC(通達第99号)
  • 公布日:2025年10月27日付
  • 施行日:2026年1月1日以降に開始する会計年度に適用。
  • 従来のCircular No. 200/2014/TT‑BTCを全面的に置き換える改定。
  • 改正の目的としては、ベトナムの会計制度をより“国際基準(例えばIFRS)”寄りに、デジタル化・統合・透明性を高める方向。

改正ポイント

内部管理・内部統制ルールの整備が義務化

企業は、帳簿作成や承認フロー、資産管理などの一連のプロセスに対して、明確な内部管理・内部統制ルールを整備し、文書化することが求められます。通達99号や解説資料では、これを通じて 会計処理の透明性や正確性を高めるとともに、リスク管理や統制責任の明確化を図ることが目的とされています。内部統制の構築により、企業は統制システム全体の適正運用を確保し、経営判断や会計報告の信頼性を高めることが期待されます。

会計伝票・帳簿書式の再設計時の規定

企業が、独自に伝票や帳簿の書式を再設計する場合、法令に沿った必須項目を含めることが義務付けられています。形式の自由度は広がった一方で、記録すべき情報の要件が明確化され、会計記録の統一性と信頼性が向上します。

勘定科目体系の大幅改正

従来の固定的な勘定科目体系は見直され、企業の実態に合わせたカスタマイズが可能となりました。これにより、産業構造や経営実態に応じた柔軟な科目設計が可能となり、管理会計や経営分析への活用もしやすくなります。

主な新設科目としては以下が挙げられます:

  • 215:生物資産(農林水産業関連、IFRSとの整合性を考慮)
  • GMT関連法人税費用専用科目(グローバルミニマム課税への対応)

ほか、既存科目の廃止や新規科目追加に伴う正確なコードや名称については、通達99号本体の付録(Appendix II:勘定体系)をご確認ください。

また、勘定科目の変更により、過去会計期間との比較が難しくなるリスクや、税務当局からの指摘リスク、内部統制や会計ソフト設定の見直しが必要になる点にも留意が必要です。

会計通貨変更時の通知規定の緩和

従来(通達200号)→ 会計年度終了後10営業日以内に税務当局へ通知が必要であったが、会計通貨(VND以外を使用する場合)の変更に関する通知手続きが簡素化されました。企業は自社の経済実態により適した通貨を選択しやすくなり、外資系企業や輸出入企業にとって、より実務に合った会計運用が可能になります。

財務諸表名称変更

  • 「貸借対照表」 → 「財政状態計算書」
    (2015年会計法の用語に統一)

今回の改定では、財務諸表の名称や表示方法が国際基準(IFRS)により近い形へと見直されました。特に大きな変更として、従来の 「貸借対照表(Balance Sheet)」 が「財政状態計算書(Statement of Financial Position)」へ名称変更されます。

この変更により、海外の投資家・親会社・監査機関との比較が容易になり、企業財務の透明性と国際的な理解度が大きく向上します。
ベトナム企業と外国企業の財務報告のギャップを減らし、国際ビジネス環境に適した開示制度へ移行することが目的です。

資産・負債の短期/長期区分の明確化

今回の改定では、資産および負債を 短期(1年以内)と長期(1年以上)に分類する判断基準が、より具体的かつ国際基準(IFRS)に近い形で整理されました。
継続企業を前提とした財務諸表の作成において、企業は資産の回収時期や負債の支払予定を、実態に基づき正確に区分することが求められます。

この明確化により、財務諸表の信頼性が高まるだけでなく、企業の資金繰り・投資判断・リスク管理などの経営判断がより適切に行えるようになります。

棚卸資産および出庫品の評価方法の追加

棚卸資産や出庫品の評価方法に 新たな計算手法が正式に追加 されました。
従来の先入先出法(FIFO)や平均法に加え、「標準費用法(Standard Cost Method)」が新たに明記され、企業が自社の業態に合わせて最適な方法を選択できるようになります。

これにより、特に小売業・製造業・商社など、在庫を多く扱う企業にとって、実態に沿った在庫管理が可能となり、国際水準により近づくといえます。

貸倒引当金の計上基準を詳細化

売掛金や貸付金などに対する、貸倒引当金の計上基準がより詳細に定められ、信用リスクの評価方法が明確化されました。これにより、引当金の過少計上・過大計上を防ぎ、企業の財務状況をより正確に反映できるようになります。

また、通達48/2019との整合性が図られ、金融資産・債権に関する引当金の計上ルールが統一されたことで、会計処理の一貫性が高まり、企業間・年度間の比較もしやすくなります。

会社分割・合併・清算など特別状況での財務諸表作成ルールの明確化

企業再編(分割・統合・合併)や、会社の継続前提が成り立たない場合(Going Concern問題)など、特別な状況における財務諸表の作成方法が明確に規定されました。
これにより、

  • 再編時の資産・負債の評価方法
  • 清算時の表示方法
  • 継続が困難な場合の開示内容

といった具体的な処理ルールが統一され、取引の透明性が高まり、グループ内での会計処理の一貫性も確保しやすくなります。

会計ソフトウェアの使用ルールの明確化

会計ソフトを使用する際の要件が整理され、データ保管、アクセス権限、承認・改ざん防止、セキュリティといった管理基準が明確化されました。
クラウド会計やERPを導入する企業が増える中で、会計コンプライアンスの強化を図りつつ、実務をより安全かつ効率的に運用できるようにすることが目的です。

廃止される通達

通達99号の施行に伴い、以下が廃止:

  • 通達 200/2014/TT-BTC(主要会計制度の根拠)
  • 通達 75/2015/TT-BTC
  • 通達 53/2016/TT-BTC
  • 通達 195/2012/TT-BTC

※ 一部例外は通達99号第31条で定義。

まとめ

通達99/2025/TT-BTCは、ベトナム企業会計の実務運用に対して、従来制度の枠を超える大幅な変更を求めるものです。
GMT対応の明確化、IFRSとの接続強化、内部統制の明文化、会計帳票の再設計、
さらにシステム要件の高度化など、企業の会計実務は新たなステージに移行します。

本通達は、単なる「対応」ではなく、企業が会計基盤を再構築する絶好のタイミングとも言えます。
運用方法の見直しや、会計ソフトのアップデートを進める上でも重要な指針となるでしょう。

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