【2021年2月〜】ベトナム労働許可証申請時の学位証明の厳格化について

photo202106214

– ベトナム労働許可証申請における卒業証明の問題とは-
新政令施行に伴う学位証明の厳格化、申請不受理の際の対応など

本項では、最近ベトナム現地で問題視されていた「労働許可証申請時の学位証明の厳格化」について、解説致します。

これまでベトナムの現地法人などで就労する外国人が現地でワークパーミット(労働許可証)を申請する際には、その人材の学位を証明する資料として「学術機関の卒業証明書」の提出が求められており、また卒業証明書が学位証明の資料として認められていました。

新たに駐在する方が赴任前に、過去卒業した大学の総務部などに問い合わせ、卒業証明書を日本語ないし英文で発行してもらっていたと思います。

ですがここ数ヶ月、ベトナム現地(北部ハノイなど)で日本人駐在員(専門家ポジション)向けに労働許可証を申請する際に、卒業証明書が学位を証明する資料として認められないという問題事例が多く発生していました。

学位証明の厳格化のきっかけは 新政令(No.152 / 2020 / ND-CP)

そのような問題が生じることになったきっかけは、昨年(2020年)末に公布され、2021年2月から施行された「ベトナムで就労する外国人労働者等の雇用・管理に関する新政令(No.152 / 2020 / ND-CP)」の運用が開始されたことです。 
(本政令の内容に関しては、2021年1月26日公開のこちらの記事をご覧ください。

本政令ではまず、労働許可証を発行するポジションの一つである専門家の「定義」が変更されたこと、旧政令の同定義内で記載のあった「外国機関、組織、企業が専門家であると認定した証明書を有する場合」という項目が新政令では削除されたことが関わっています。

この変更が各行政機関の実務的な審査の場面においてどう影響するのかは施行前から注視されていましたが、結果的には、「専門家」ワークパーミットの申請対象者の大学の専攻とベトナムで就労予定の職務の一致を厳格に審査されることに繋がり、強いては(新政令施行以前には受理されていた)「卒業証明書」までもが受理されなくなってしまいました。

行政窓口によっては、「卒業証明書」は申請資料として全く認めず、代わりに「卒業証書」の提示を求める地域もあり、現地の日本企業をはじめ外資系企業の中で大きな混乱が起きました。

ここで問題なのが、新政令においては、専門家の定義(労働許可証を発行する条件)は変更されたものの、依然、第3条の第3項において、卒業証明書を学位証明として認める一文「*大学卒業証明書或いは同等の学位を持ち、かつ当該分野において3年以上の実務経験を有する場合」との記載があること、
にも関わらず、卒業証明書が認められなくなったことです。

日本大使館によるベトナム政府への口上書

日本では大学が卒業生などに対して発行する卒業証明書以上に、学位を証明する資料は存在しないと思います。この問題は2月以降、現地へ駐在員等を派遣する日本企業も大きな影響を受け、ベトナム日本商工会議所でも提議されるなど、個々の企業では対応出来ない問題へと発展して行きました。

先月まで目立った動きがないままでしたが、6月14日に在ベトナム日本大使館が「ベトナム労働・傷病兵・社会問題省」に以下の口上書を送付したことで改善の兆しが見えてきました。

https://www.vn.emb-japan.go.jp/files/100203893.pdf


日本大使館の口上書では、日本の大学の卒業証明書が学位を証明するに値する書類であるという見解を示しており、今後も日系企業の進出先の「ベトナム労働・傷病兵・社会問題省」などの申請受付窓口で、大学の卒業証明書が受理されない場合の対応策として、この口上書を提示した上で申請するようにと推奨しています。

申請不受理の際の対応

また日本大使館の口上書を添付し、卒業証明書が学位を証明する資料と認められても、依然「専門家」ワークパーミットの申請対象者の大学の専攻と、ベトナムで就労予定の職務の関連性が認められず、結局申請が受理されない事例も発生しています。

今後このような問題が発生した際にも、 日本大使館は「ベトナム労働・傷病兵・社会問題省」からの助言のもと、以下の資料を申請受付窓口へ提出するように推奨しています。


(1) 事情説明書
  (申請背景、大学の専攻とベトナムでの職務の関連性を説明、検討要請を記載)
 *事業説明書は日本大使館もウェブ上でフォーマットを公開しています。
 
(2) 成績証明書(英文原本とベトナム語翻訳した公証版)


日本大使館が卒業証明書に対する口上書を「労働・傷病兵・社会問題省」へ提出していること、さらには事情説明書や成績証明書の追加提出は、「労働・傷病兵・社会問題省」の助言のもとで日本大使館が日系企業へ推奨しているアクションであることを管轄行政の窓口担当者へ説明することで、より問題解決に繋がると考えます。

photo202106212

以上、本項では、「ベトナムで就労する外国人労働者等の雇用・管理に関する新政令(No.152 / 2020 / ND-CP)」の施行により、2月中旬から現地で発生したいくつかの労働許可証申請時のトラブル(専門家の労働許可証申請に対して卒業証明書が受理されない、大学の専攻とベトナムでの職務の関連性が認められない)と、その対応策について解説させて頂きました。

今回の政令に限らず、このような新たな法令の運用が開始された直後は、行政機関において、これまでの運用が認められなくなったり、納得し難い要求をされることも多々あります。

同様の問題を抱える企業の事例や対応を参考にしてみたり、ベトナム日本商工会議所や日本大使館が推奨する対策を実施することで解決できることもありますので、いろいろな情報を収集しながら対処して頂ければと思います。

本項の内容に関しまして、またベトナム進出全般に関して何かご質問などございましたら、いつでもお問い合わせ下さいませ。