失業保険に関する2025年雇用法施行政令の概要と企業実務への影響
政令公布の背景と制度改正の方向性
2025年12月31日、ベトナム政府は、失業保険制度に関する2025年雇用法の一部条項を具体化する政令として、政令第374/2025/ND-CP号(以下「本政令」)を公布しました。本政令は2026年1月1日より施行され、失業保険の拠出、減免措置、使用者の責任および労働者の権利救済に関する具体的な運用ルールを明確に定めています。
ベトナムでは近年、経済成長とともに労働市場の流動性が高まり、転職や契約終了後に失業保険給付を受ける労働者の数も増加しています。一方で、使用者による保険料の未納・不足拠出や、手続不備を理由として、労働者が本来受けられるはずの給付を適時に受給できないケースが社会問題として指摘されてきました。
本政令は、こうした実務上の課題を背景に、制度そのものを大きく変えるのではなく、既存制度を前提として責任関係と救済手段を明確化することを主眼に置いています。そのため、企業にとっては新制度への対応というよりも、現行運用の見直しと管理体制の強化が求められる内容となっています。
失業保険の拠出率 ― 現行制度の維持とその意味
本政令において最も関心を集めた点の一つが、失業保険の拠出率です。政令案の検討段階では、労働者および使用者の負担を月給の0.9%とする案も報じられていましたが、最終的にこの案は採用されませんでした。
その結果、本政令により確認された拠出率は以下のとおりです。
- 労働者:月給の1%
- 使用者:失業保険に加入している労働者の月額賃金総額の1%
この点から、本政令は、企業の失業保険に関する金銭的負担を増加させるものではないことが明確です。既に法令に基づき適正に保険料を拠出している企業にとっては、実務上のインパクトは限定的といえます。
一方で、拠出率が据え置かれた背景には、失業保険制度の財政的安定性を確保すると同時に、労働者保護を後退させないという政策判断があると考えられます。すなわち、本政令は「負担の軽減」よりも「確実な履行」を重視した内容となっています。
障害者雇用に対する失業保険拠出金の減免措置
本政令の新規ポイントとして特に注目されるのが、障害者を新たに雇用する場合の失業保険拠出金の減免措置です。
本政令では、使用者が障害者を新規に採用した場合、当該労働者に係る使用者負担分の失業保険拠出率(1%)を、一定期間0%に軽減できることが明確に規定されました。
この減免措置の概要は以下のとおりです。
- 対象者:新たに採用された障害者
- 減免内容:使用者負担分の失業保険拠出率を1%から0%へ軽減
- 適用期間:採用日から最初の12か月を上限とし、実際の就労期間中に限る
この制度は、障害者雇用に伴う企業側のコストを一部軽減することで、障害者の雇用促進を制度面から後押しすることを目的としています。単なる社会保障制度の調整にとどまらず、労働市場における包摂性(インクルージョン)を高めるという政府の姿勢が明確に表れた規定といえます。
企業にとっては、人材確保やCSR(企業の社会的責任)の観点からも、この減免措置を踏まえた採用戦略の検討余地が広がることになります。

使用者の失業保険拠出責任の明確化
本政令の中核を成すのが、使用者の失業保険拠出責任を明確に定義した点です。
まず、本政令は、労働契約が終了する際、使用者が失業保険料を法令どおり全額拠出していることを前提として、労働者が失業保険給付を適時に受けられるようにしなければならないことを明示しています。形式的な加入手続だけでなく、実質的に未納や不足がない状態が求められる点が重要です。
さらに、本政令は、使用者が失業保険料を十分に拠出していない場合の労働者の救済手段についても明確に定めています。具体的には、労働者は、労働契約終了日から3か月以内に、管轄裁判所に対して失業保険に関する権利の救済を求め、使用者を提訴することが可能とされています。
この規定により、失業保険料の未納・不足拠出は、行政指導や是正勧告にとどまらず、労働紛争として司法の場で争われる可能性があることが明確になりました。
企業実務への影響と留意点
本政令は、失業保険制度の枠組み自体を大きく変更するものではありませんが、企業実務においては以下の点に注意が必要です。
- 給与計算および社会保険拠出の正確性がこれまで以上に重要となる
- 退職時点での失業保険拠出状況を適切に管理・証明できる体制が求められる
- 障害者雇用に関する減免措置の適用要件を正確に把握する必要がある
特に、社会保険手続きを外部委託している企業であっても、最終的な法的責任は使用者に帰属する点には十分な注意が必要です。制度理解と内部管理体制の整備が、今後の労務リスク低減につながります。
まとめ
政令第374/2025/ND-CP号は、使用者に対する失業保険加入義務を基本的に変更または拡大するものではありません。しかしながら、障害者雇用を促進するための具体的なインセンティブと、労働者の退職後の失業保険給付を確実にするための使用者責任の明確化という二つの重要な政策目的を明確に打ち出しています。
今後、企業においては、本政令の趣旨を踏まえ、失業保険の拠出管理体制を再点検するとともに、労務管理の透明性と法令遵守体制の強化が一層求められることになるでしょう。
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