ベトナム個人所得税法2025/2026年施行の改正ポイントを解説

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ベトナム個人所得税法が改正/企業担当者が押さえておきたいポイント

ベトナムでは、2025年12月に新しい個人所得税法(109/2025/QH15)が可決され、2026年7月1日に施行されました。

この法律では、給与所得に関する累進課税制度の見直しをはじめ、個人事業主への課税方法や所得区分の整理など、個人所得税(PIT)制度全体が大きく見直されています。

「個人所得税は従業員が納める税金だから、会社への影響は少ない」と考えられることもありますが、実際には給与計算や源泉徴収、扶養控除の管理、日本人駐在員の税務対応など、多くの実務を企業が担っています。

そのため、新たな個人所得税法は、人事・総務・経理担当者だけでなく、ベトナム現地法人を運営する経営者にとっても内容を理解しておきたい法律の一つといえるでしょう。

さらに、この法律は単独で制度を見直したものではありません。近年進められている税務行政のデジタル化や税務管理制度の整備とも連動しており、企業の税務実務にも幅広い影響を与えることが見込まれます。

本記事では、109/2025/QH15によって見直された個人所得税制度のポイントや、日系企業が実務で押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

ベトナム個人所得税法(109/2025/QH15)とは?

個人所得税法は、ベトナム国内で所得を得る個人に対して、どの所得にどのような税金を課すのかを定めた基本法です。

対象となるのは給与や賞与だけではありません。事業所得、投資所得、配当所得、不動産譲渡所得など、さまざまな所得が対象となります。

企業が日常業務で最も関わるのは給与所得ですが、日本人駐在員や現地採用社員、専門職人材など、多様な働き方が増えている現在では、企業側も制度を正しく理解しておくことが重要です。

今回の改正では、税率だけでなく制度全体が見直され、より公平で分かりやすい税制度を目指した内容となっています。

ベトナム個人所得税法2025の概要

項目 内容
法律名 ベトナム個人所得税法
法律番号 109/2025/QH15
可決日 2025年12月10日
施行日 2026年7月1日(一部規定を除く)
主な対象 給与所得・事業所得・投資所得・配当所得など
主な改正内容 税率区分、控除制度、個人事業主制度、所得区分の整理

この法律は「税率を変更する法律」というだけではなく、社会や経済の変化に合わせて個人所得税制度全体を見直すための法律として位置付けられています。

なぜ、個人所得税法が見直されたのか

今回の見直しの背景には、ベトナムを取り巻く経済環境や就業環境の大きな変化があります。

近年のベトナムでは、製造業を中心に多くの外国企業が進出し、IT・物流・サービス業など幅広い分野で雇用が拡大しています。それに伴い、給与水準の上昇や働き方の多様化も進み、個人を取り巻く所得環境は大きく変化しました。

一方で、従来の個人所得税制度では、こうした経済環境や働き方の変化に十分対応できない場面も見られるようになり、税負担のバランスや課税方法の見直しを求める声が高まっていました。

また、電子商取引の拡大やフリーランスなど新たな働き方の普及により、従来の制度では対応が難しいケースも増えています。

こうした状況を踏まえ、個人所得税制度を現在の経済・社会の実態に合わせ、より公平で分かりやすい仕組みへ見直すことを目的として、新たな個人所得税法(109/2025/QH15)が制定されました。

主な改正ポイント① 給与所得税の税率区分を見直し

今回の改正で最も注目されているのが、給与所得に対する累進課税制度の見直しです。

従来の制度では複数の税率区分が設定されていましたが、新たな個人所得税法では、5段階へ見直されました。これに伴い、15%および25%の税率区分が整理され、5段階の累進課税制度へ移行しています。今回の見直しは、課税体系の簡素化と制度の明確化を図ることを目的としています。

改正前 改正後
7段階(5%・10%・15%・20%・25%・30%・35%) 5段階(5%・10%・20%・30%・35%)

これは単純に税率を変更するだけではなく、所得水準に応じた課税の仕組みを見直し、制度全体を分かりやすくすることも目的としています。

企業にとっては、給与計算システムや源泉徴収額の設定変更が必要になる可能性があるため、施行前から準備を進めることが重要です。

また、日本人駐在員についても居住者・非居住者の判定や所得内容によって税額が変わる場合があるため、税率だけではなく制度全体を確認しておく必要があります。

特に製造業では残業手当や各種手当、営業職ではインセンティブ、管理職では賞与など、給与体系が複雑になることも少なくありません。

制度変更を機に、給与計算フロー全体の見直しを検討するとよいでしょう。

主な改正ポイント② 基礎控除・扶養控除の制度を見直し

個人所得税を計算する際には、本人控除や扶養控除が適用されます。

新たな個人所得税法では、本人控除額が月額11,000,000VNDから15,500,000VNDへ、扶養控除額が1人当たり月額4,400,000VNDから6,200,000VNDへ引き上げられました。これにより、給与所得者の税負担軽減が図られるとともに、企業においても給与計算や源泉徴収の設定を新制度に合わせて見直す必要があります。

項目 改正前 改正後
本人控除 月額11,000,000VND 月額15,500,000VND
扶養控除(1人当たり) 月額4,400,000VND 月額6,200,000VND

一見すると控除額が変更されただけのように思えるかもしれませんが、給与計算を担当する部署にとっては実務への影響が少なくありません。

例えば、扶養家族の登録内容が古いままになっていたり、異動情報が更新されていなかったりすると、本来適用できる控除が正しく反映されない可能性があります。

また、控除対象外となる家族を登録したまま給与計算を行うと、後日修正申告や追加納税が必要となるケースも考えられます。

今回の見直しを機に、従業員情報や扶養家族情報が最新の状態になっているかを確認するとともに、給与計算システムが新たな控除額へ対応しているかも併せて確認しておくことが重要です。

法改正を機に確認したい項目

確認項目 チェック内容
扶養家族登録 最新情報へ更新されているか
異動情報 結婚・出産・扶養変更などが反映されているか
控除対象 法令上の条件を満たしているか
給与計算システム 新しい控除額が正しく設定されているか
社内管理 人事・経理で情報共有ができているか

従業員数が多い企業ほど、人事部門と経理部門が連携し、控除制度の変更内容を給与計算へ適切に反映できる体制を整えておくことが重要になります。

主な改正ポイント③ 個人事業主に関する課税制度の整理

個人所得税法(109/2025/QH15)では、個人事業主に関する課税制度についても整理が行われました。

近年のベトナムでは、フリーランスや小規模事業者が増加し、多様な働き方が広がっています。

一方で、従来の制度では、年間売上高を基礎として税額を算定する仕組みが採用されており、実際の収益状況や事業実態との乖離が生じる場合があることが課題として指摘されていました。

こうした課題を踏まえ、新たな個人所得税法では個人事業主に関する課税制度の見直しが行われ、事業実態を考慮した課税制度への移行が図られています。企業が直接納税する制度ではありませんが、個人事業主へ業務委託を行っている企業では、契約内容や支払方法、税務上の取り扱いについて改めて確認しておくことが望ましいでしょう。

特に、ベトナム国内で外部パートナーやフリーランスと継続的に取引を行っている企業では、契約内容や税務上の取り扱いを改めて確認しておくことで、将来的な税務リスクの軽減にもつながるでしょう。

主な改正ポイント④ 所得区分・課税対象の整理

新たな個人所得税法では、税率や控除制度に加え、所得区分や課税対象についても明確化が図られました。個人所得税では、給与所得だけが課税対象ではありません。

事業所得や投資所得、配当所得、不動産譲渡所得など、それぞれ異なるルールが適用されるため、所得区分を正しく判断することが重要です。

所得ごとの定義や課税方法が明確化されたことで、納税者だけでなく企業側にとっても判断しやすい制度となりました。特に外国企業では、日本本社から支払われる報酬や海外勤務手当など、どの所得区分に該当するか判断が難しいケースもあります。

制度が整理されたことで、今後は税務処理の統一や適切な申告につながることが期待されています。

主な所得区分

所得区分 主な内容 実務上のポイント
給与所得 給与・賞与・各種手当 最も企業実務との関わりが大きい
事業所得 個人事業・フリーランス収入 業務委託契約の確認が重要
投資所得 利息・投資収益など 投資形態によって課税方法が異なる
配当所得 配当金 投資家や株主への支払いで確認が必要
不動産譲渡所得 不動産売買 個人所有資産の売却時に関係する

企業がすべての所得を管理するわけではありませんが、日本人駐在員や経営者については複数の所得区分が関係する場合もあり、特に日本人駐在員や経営者など、複数の所得区分が関係するケースでは、所得区分を正しく判断することが適切な税務申告につながります。

主な改正ポイント⑤ 税務行政のデジタル化と企業実務への影響

近年のベトナムでは、税務行政全体のデジタル化が急速に進められています。電子インボイスの普及や電子税務申告(eTax)の利用拡大に加え、税務当局と納税者との各種手続きについても電子化が進められています。

109/2025/QH15も、こうした税務行政のデジタル化の流れを踏まえた内容となっており、個人識別番号(Personal Identification Number)を納税者番号として利用する仕組みや、税務情報を電子的に管理・連携することを前提とした制度運用が盛り込まれています。

そのため企業には、単に税額を計算するだけでなく、従業員情報や給与データ、源泉徴収情報を正確に管理し、税務当局へ適切に提出できる体制を整えることが重要です。

また、給与計算システム(給与・各種手当・社会保険料・個人所得税を自動計算し、給与明細や源泉徴収データを作成するシステム)や、人事管理システム、会計システムを連携して運用している企業では、それぞれのシステム間で従業員情報や税務データに不整合が生じていないかを確認しておく必要があります。

制度改正を機に、システム設定や運用フローを見直し、最新の法令内容へ適切に対応できる体制を整えておくことが重要です。

デジタル化対応チェックリスト

確認項目 チェック内容
給与計算システム 累進税率・本人控除・扶養控除などの設定が新制度へ対応しているか
従業員情報 個人識別番号や扶養家族情報などが最新の内容になっているか
税務申告 電子税務申告(eTax)へ適切に対応できているか
データ管理 人事・経理・会計システム間で情報が一致しているか
社内ルール 法改正後の運用方法や担当部署間の連携体制を共有しているか
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日系企業への影響

新たな個人所得税法は、ベトナムで事業を展開する日系企業の実務にもさまざまな影響を及ぼします。

特に給与計算や源泉徴収を担当する部署では、新制度の内容を踏まえ、現在の運用が法令に沿っているかを確認することが重要です。

例えば製造業では、残業代や各種手当を含めた給与体系が複雑になるケースがあります。

商社では、日本とベトナムを行き来する社員や短期出張者に関する税務上の取り扱いを確認する場面も少なくありません。

IT企業では、成果報酬やプロジェクト単位の報酬、海外人材との契約など、多様な報酬形態に応じた税務対応が求められる場合があります。

制度改正によって企業の法人税率が変わるわけではありませんが、人事・経理部門では、給与計算や源泉徴収、従業員情報の管理など、実務全体を改めて確認することが求められます。

実務担当者が確認しておきたいポイント

ベトナム個人所得税法(109/2025/QH15)は2026年7月1日に施行されました。

新制度の運用開始後は、法令の内容を理解するだけでなく、自社の給与計算や源泉徴収、扶養控除の管理などが新制度に沿って運用されているかを確認することが重要です。

特に給与計算や税務申告は毎月発生する業務であるため、制度変更への対応漏れがあると、修正申告や追加対応が必要となる可能性があります。

実務チェックリスト

チェック項目 確認内容
関連する政令・通達を含めた最新の法令内容 社内で109/2025/QH15および関連する政令・通達の内容を共有し、実務へ反映できているか確認する
給与計算システムは対応済みか 累進税率・本人控除・扶養控除などが新制度に基づいた設定になっているか確認する
扶養家族情報は最新か 控除対象者の登録内容や変更漏れがないか確認する
日本人駐在員の税務区分は適切か 居住者・非居住者の判定や給与の課税方法を再確認する
源泉徴収の運用は適切か 新制度に基づいた税額計算が行われているか確認する
人事・経理間で情報共有できているか 人事異動や扶養情報などが給与計算へ正しく反映されているか確認する
顧問会計事務所・税務アドバイザーと連携しているか 運用上の疑問点や制度変更への対応について定期的に確認する

一度制度対応を完了した後も、給与計算や税務申告が新制度に沿って適切に運用されているかを定期的に確認することが重要です。特に外国人従業員や日本人駐在員が在籍する企業では、個々の状況によって税務上の取り扱いが異なる場合もあるため、関連する政令や通達も踏まえながら、運用状況を継続的に見直していくことが求められます。

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まとめ

ベトナム個人所得税法(109/2025/QH15)は、2026年7月1日に施行され、累進税率や本人控除・扶養控除の見直しをはじめ、所得区分の整理や個人事業主に関する課税制度の見直しなど、個人所得税制度全体に関わる大きな改正が行われました。

今回の改正では、税率や控除制度の見直しに加え、税務行政のデジタル化の流れを踏まえた制度整備も進められています。企業には法令を正しく理解したうえで、給与計算システムの設定や源泉徴収、扶養控除の管理などが最新の制度に対応しているかを確認し、適切な実務運用を行うことが求められます。

特にベトナムへ進出している日系企業では、日本人駐在員や現地採用社員など、多様な雇用形態への対応が必要です。今回の法改正を機に、自社の給与計算や税務管理体制が最新の法令や関連する政令・通達に沿って運用されているか、一度見直してみることをおすすめします。

なお、本法律では制度の基本的なルールが定められていますが、食事手当の非課税限度額や短期契約者への源泉徴収基準額、外貨建て所得の換算方法など、企業実務に関わる具体的な運用ルールについては、施行政令である「政令253/2026/NĐ-CP」において詳しく規定されています。実務対応を確認したい方は、あわせて「ベトナム個人所得税施行政令253/2026/NĐ-CPとは?改正ポイントと企業への影響を解説」の記事もぜひご覧ください。

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