ベトナム個人所得税法の施行細則「政令253/2026/NĐ-CP」が施行
2026年7月1日、ベトナムでは個人所得税法(109/2025/QH15)の施行にあわせて、その具体的な運用ルールを定めた政令253/2026/NĐ-CPが施行されました。
個人所得税法では、税率区分や控除制度、所得区分など制度の基本的な枠組みが見直されましたが、実際の税務手続きや給与計算に関する詳細なルールまでは定められていません。
そこで制定されたのが、個人所得税法の施行細則である「政令253/2026/NĐ-CP」です。
企業が給与計算や源泉徴収などの実務を適切に行うためには、法律だけでなく、この施行政令の内容まで確認したうえで運用へ反映することが求められます。
政令では、
- 非課税となる所得の範囲
- 源泉徴収の方法
- 外国人を含む納税者の取扱い
- 外貨建て所得の換算方法
- 確定申告や税額調整の手続き
など、企業の実務に直結する内容が具体的に規定されています。
ベトナムで事業を行う日系企業にとっては、人事・総務・経理担当者だけでなく、現地法人の管理者や経営者も内容を理解しておきたい重要な法令の一つです。
本記事では、政令253/2026/NĐ-CPの概要と、日本企業に影響が大きい改正ポイントについて分かりやすく解説します。
政令253/2026/NĐ-CPとは?
政令253/2026/NĐ-CPは、個人所得税法(109/2025/QH15)を実際に運用するための施行細則です。
法律では制度の基本ルールが示されますが、企業が日々の業務で必要となる具体的な判断基準については、政令や通達によって補完されます。
例えば、
- どのような手当が非課税となるのか
- 外貨で支払われる給与をどのように換算するのか
- 源泉徴収はどのタイミングで行うのか
- 年末の税額調整はどのように処理するのか
といった実務上のルールは、この政令で詳しく定められています。
そのため、給与計算や個人所得税の申告を担当する企業では、法律だけでなく政令の内容もあわせて確認しておくことが重要です。
政令253/2026/NĐ-CPの概要
| 項目 | 内容 |
| 政令名 | 個人所得税法施行政令 |
| 番号 | 253/2026/NĐ-CP |
| 公布日 | 2026年6月30日 |
| 施行日 | 2026年7月1日 |
| 対象 | 個人所得税法(109/2025/QH15)の運用 |
| 主な内容 | 非課税所得、源泉徴収、所得換算、確定申告、税額調整など |
個人所得税法との違い
法律109/2025/QH15と政令253/2026/NĐ-CPは、それぞれ役割が異なります。
| 個人所得税法 | 政令253/2026/NĐ-CP |
| 制度全体を定める基本法 | 制度を運用するための実施細則 |
| 税率・控除制度・所得区分など | 源泉徴収・非課税所得・申告手続きなど |
| 制度の基本ルール | 企業実務の具体的な運用ルール |
企業が給与計算や税務処理を行う際には、これらを一体として理解することが求められます。
施行日と適用時期で注意したいポイント
政令253/2026/NĐ-CPは2026年7月1日に施行されました。
ただし、すべての規定が同じタイミングで適用されるわけではありません。
給与所得や事業所得に関する一部の規定については、2026年1月1日から適用される経過措置が設けられています。
一方、昼食代やシフト間食事代に関する非課税限度額については、2026年7月1日以降の支給分から適用されます。
そのため、企業では「1月から適用される内容」と「7月から適用される内容」を区別しながら制度へ対応する必要があります。
主な改正ポイント① 食事手当の非課税基準を明確化
政令253では、企業が従業員へ支給する昼食代やシフト間食事代について、個人所得税が非課税となる上限額が明確に定められました。
非課税となる金額は従業員1人あたり月120万VNDまでです。
この範囲内で支給される食事手当は課税所得に含まれませんが、上限を超えた部分については給与所得として課税対象になります。
福利厚生の一環として食事手当を支給している企業では、支給額や給与計算システムの設定が新しい基準に対応しているか、一度確認しておくとよいでしょう。
適用開始日は7月1日
食事手当の非課税基準は、2026年7月1日から適用されています。
給与所得など一部の規定とは異なり、2026年1月まで遡って適用されるものではありません。
そのため、制度開始後に支給する食事手当から新しい基準を適用する必要があります。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
| 昼食・シフト間食事代の非課税上限 | 規定あり(従来基準) | 月120万VND |
食事手当に関する確認ポイント
| 確認項目 | チェック内容 |
| 支給額 | 月120万VND以内となっているか |
| 給与計算システム | 非課税限度額が正しく設定されているか |
| 福利厚生規程 | 社内規程が最新制度に対応しているか |
主な改正ポイント② 外貨建て所得の換算ルールを整理
日本人駐在員などでは、日本円や米ドルで給与や手当の一部を受け取るケースがあります。
政令253では、このような外貨建て所得をベトナムドンへ換算する際の基準についても整理されました。
所得を換算する場合は、所得が発生した時点の買入為替レートを基準として計算します。適用する為替レートは、原則として次のいずれかの銀行のものを使用します。
・納税者が口座を開設している銀行
・給与支払者(企業)が給与の支払いに利用している銀行
ベトナム国内に利用可能な銀行口座がない場合には、ベトナム国家銀行が公表する中心レートまたはクロスレートを基準として換算します。
例えば、日本本社から日本円建てで給与の一部を支給しているケースや、海外赴任手当・住宅手当などを外貨で支給している企業では、適用する為替レートによって個人所得税の計算結果が変わる場合があります。そのため、自社で適用する為替レートを統一し、給与計算や税務申告で一貫したルールで運用することが望まれます。
主な改正ポイント③ 短期契約者などへの源泉徴収基準額を引き上げ
政令253/2026/NĐ-CPでは、労働契約を締結していない個人や、契約期間が3か月未満の短期契約者へ報酬を支払う場合の源泉徴収ルールが見直されました。
従来は、1回あたり2,000,000VND以上の支払いに対して10%の個人所得税を源泉徴収する必要がありましたが、2026年7月1日以降は、この基準額が1回あたり5,000,000VND以上へ引き上げられています。
これにより、5,000,000VND未満の報酬については、原則として10%の源泉徴収は不要となりました。ただし、受給者本人が希望する場合には、5,000,000VND未満であっても源泉徴収を行うことができます。
また、労働契約の終了後に支払われる報酬についても、1回あたり5,000,000VND以上であれば10%の源泉徴収対象となることが明確化されています。
さらに、源泉徴収のみで課税関係が完結し、確定申告が不要となる基準額についても、月10,000,000VNDから15,000,000VNDへ引き上げられました。
短期アルバイトや業務委託先、外部講師、フリーランスなどへ報酬を支払う企業では、新しい基準額に合わせて、給与計算や源泉徴収の運用を見直しておく必要があります。
日本企業が確認したいポイント
| 確認項目 | チェック内容 |
| 短期契約者への報酬 | 5,000,000VND以上の支払いは10%源泉徴収の対象となっているか |
| 契約終了後の支払い | 支払時点で源泉徴収が必要か確認しているか |
| 給与計算システム | 新しい基準額に対応しているか |
| 業務委託・フリーランスへの支払い | 契約内容に応じた税務処理となっているか |
| 内容 | 改正前 | 改正後 |
| 10%源泉徴収対象 | 2,000,000VND以上 | 5,000,000VND以上 |
| 確定申告不要基準 | 10,000,000VND/月 | 15,000,000VND/月 |
主な改正ポイント④ 扶養控除の登録ルールを整理
扶養控除は、給与所得者の税負担を軽減する重要な制度ですが、政令253では登録手続きや証明書類の提出期限についても整理されています。
2025年課税期間までは従来のルールが適用されますが、2026年課税期間からは、その年の12月31日までに扶養親族の登録および必要書類の提出を行うことが基本となります。
また、一度登録した扶養親族については、扶養状況に変更がない限り、毎年改めて登録し直す必要はありません。これにより、毎年の登録手続きにかかる事務負担の軽減が期待されています。
一方で、結婚や出産、扶養家族の増減など、扶養状況に変更があった場合には、速やかに登録内容を更新する必要があります。
企業では、人事部門と経理部門が連携し、扶養家族の情報が最新の状態で管理されているかを定期的に確認しておきましょう。
登録期限を過ぎると、本来受けられる扶養控除が適用できず、年末調整や確定申告で修正が必要になる場合があります。
主な改正ポイント⑤ 2026年の制度切り替えに伴う経過措置
新制度への移行にあたり、政令253では2026年の税務処理に関する経過措置も設けられています。
2026年1月から6月までの給与や報酬については、旧制度に基づいて申告・納税を行っている場合でも、月次や四半期ごとの申告書を改めて提出する必要はありません。
制度変更による税額の過不足が生じた場合は、2026年度の個人所得税確定申告の際にまとめて調整することが認められています。
制度開始直後は、旧制度と新制度が混在する期間となるため、給与計算や税務申告を担当する企業では適用時期を整理したうえで運用することが大切です。
主な改正ポイント⑥ 企業が見直したい給与・税務管理体制
政令253では新たな制度が示されましたが、企業に求められるのは法令を理解するだけではありません。
制度改正を受けて、給与計算や税務管理体制についても、この機会に見直しておきましょう。
例えば、
- 給与計算システムが最新制度へ対応しているか
- 食事手当など福利厚生の設定は適切か
- 扶養家族情報は最新か
- 外貨建て給与の換算方法は社内で統一されているか
- 人事・経理・会計部門で情報共有できているか
といった点は、実務上のミスを防ぐためにも確認しておきたいポイントです。
法改正を機に運用フロー全体を見直すことで、将来的な税務リスクの軽減にもつながります。
日本企業向け実務チェックリスト
制度改正への対応として、次のような項目を確認しておくことをおすすめします。
| チェック項目 | 確認内容 |
| 給与計算システム | 最新の税率・控除制度・源泉徴収ルールへ対応しているか |
| 食事手当 | 非課税限度額(月120万VND)が正しく設定されているか |
| 短期契約者への支払い | 源泉徴収基準額を最新制度で運用しているか |
| 扶養家族情報 | 登録内容や証明書類を確認しているか |
| 外貨建て給与 | 適切な為替レートで換算しているか |
| 外国人従業員 | 居住者・非居住者の判定が適切か |
| 税務申告 | 2026年の経過措置を踏まえて運用しているか |
| 社内体制 | 人事・経理・会計部門で情報共有できているか |
よくある質問(FAQ)
政令253/2026/NĐ-CPはすべて2026年7月1日から適用されますか?
政令自体は2026年7月1日に施行されていますが、規定によって適用開始時期が異なります。給与所得や事業所得に関する一部の規定は2026年1月1日から適用される一方、食事手当の非課税基準は7月1日以降の支給分から適用されます。
短期契約者への報酬も源泉徴収の対象になりますか?
はい。契約期間や支払金額など一定の条件に該当する場合は源泉徴収の対象となります。制度改正により基準額も見直されているため、従来の運用を継続している企業は改めて確認しておくことが重要です。
扶養親族は毎年登録し直す必要がありますか?
扶養状況に変更がない場合は、毎年改めて登録する必要はありません。ただし、扶養家族の追加や削除など変更があった場合には、所定の手続きを行う必要があります。
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まとめ
政令253/2026/NĐ-CPは、ベトナム個人所得税法(109/2025/QH15)の運用ルールを具体化した施行細則であり、給与計算や源泉徴収、扶養控除、税務申告など企業の実務に大きく関わる内容が数多く盛り込まれています。
特に2026年は制度の切り替え期間となるため、適用開始時期や経過措置を正しく理解したうえで運用することが求められます。給与計算システムの設定や福利厚生制度、人事・経理部門の連携体制についても見直しを行い、最新の制度に対応した運用体制を整えておくことが大切です。
ベトナムへ進出している日系企業では、制度改正への対応は一度設定を変更して終わりではありません。法改正の内容を正しく理解し、自社の給与計算や税務管理体制へ適切に反映することが、税務リスクの低減と安定した事業運営につながります。
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