ベトナム輸出VAT還付制度の改正点を解説(2025年7月施行)
この度、ベトナム政府は付加価値税(VAT)に関する法的枠組みを改訂しました。
先月から弊社にも本改正に関わるお問合せを多く頂いており、輸出企業や外資系投資プロジェクトにとっては、資金繰りやコンプライアンス体制に直接的な影響を及ぼす改正といえます。本項では、輸出VAT還付制度の改正点について概要をまとめた上で、解説いたします。
1.法的根拠と適用開始日
本改正に関わる法令は「政令第181/2025/NĐ-CP号」と「通達第69/2025/TT-BTC号」の2件です。
「政令第181/2025/NĐ-CP号」は、付加価値税法の実施内容を明文化し、「通達第69/2025/TT-BTC号」は。その具体的な運用方法や手続に関する詳細を規定しています。
本改正は、「政令181/2025/NĐ-CP」と「通達69/2025/TT-BTC」を根拠とし、「従来制度の不明確さを整理する」とともに、「還付申請の基準や必要書類をより厳格化」、「税務透明性の強化する」ことを目的としています。
「政令第181/2025/NĐ-CP号」、「通達第69/2025/TT-BTC号」共に、2025年7月1日より即時施行され、旧規定(例:Circular 219/2013等)は廃止または置き換えられました。
2. 改正の背景と狙い
ベトナムでは長らく、VAT還付をめぐる虚偽申告や不正輸出を利用した不当還付が問題となっていました。また、電子インボイスの普及が進みつつも、紙のインボイスや手書き領収証が併存し、システム連携が不十分なために税務管理の透明性が制約を受けていました。
今回の改正はこうした課題を踏まえ、
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還付基準を維持しつつも 適用対象の明確化と厳格化 を図ること
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電子インボイスを全面義務化 し、税務当局システムと企業会計を直接接続すること
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申請手続きにおける 早期差戻し制度 を導入し、不備申請を未然に防止すること
を狙いとしています。
3. 主な改正点
◎ VAT還付基準の確認と厳格運用
・従来同様、月または四半期において未控除仕入VATが 3億VND以上 発生した場合に還付申請が可能です。
・この「3億VND以上」という基準額自体は従来から存在していましたが、今回の改正により 「適用対象の明確化」 と 「運用上の厳格化」 が図られ、これまで比較的柔軟だった運用が制限されます。
◎ 電子インボイスの全面義務化
・すべての企業に対し電子インボイス利用が原則義務化され、紙インボイスや手書きインボイスは例外的ケースを除き認められません。
・発行・受領時点で税務当局システムと即時連携する仕組みが徹底されるため、企業はシステム改修や会計ソフトの対応が不可欠となります。
◎ 還付申請手続きの見直し
・従来は申請書類に不備があっても修正や補正を行いながら進めることができました。
・改正後は、不備があれば初期段階で直ちに差戻され、再提出が求められます。これにより、審査は効率化される一方、企業側には高い正確性が要求されます。
◎ 輸出取引関連の監視強化
・VAT還付申請のうち輸出に関する部分については、税関データと税務データがリアルタイムで突合される仕組みが導入。
・架空輸出や水増し請求を防止する狙いがあり、取引証憑の一貫性や即時性が重視されます。
4. 改正前と改正後の比較
項目 | 改正前(従来制度) | 改正後(2025年改正) |
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VAT還付基準 | 未控除VATが3億VND以上 → 還付申請可能(基準自体は存在) | 同じく3億VND以上。ただし対象条件を厳格化し、運用の幅を縮小 |
電子インボイス | 電子インボイス運用を義務化、紙インボイス併用は一部で容認 | 全企業で電子インボイスが必須。紙利用は極めて限定的 |
申請手続き | 書類不備があっても補正の猶予あり | 初期段階で不備があれば即差戻し。申請の正確性が必須 |
輸出還付の管理 | 税関データとの連携は限定的 | 税関データとリアルタイム照合を義務化し虚偽還付を防止 |
留意点・リスク(外資企業が特に注意すべき事項)
◎ 税務局の運用のばらつき
新制度は全国的に導入されるものの、実際の運用や解釈がすぐに統一されるとは限りません。短期的には、地域ごとや税務局ごとに異なる判断が下される可能性があり、企業はその差異を想定した対応が必要になります。
◎ 仕入先の納税状況リスク
VAT還付の可否は、自社の申告だけではなく仕入先の納税実績にも左右されます。しかし、買い手企業側で仕入先の納税履行を直接管理することはできません。そのため、信頼性のあるサプライヤー選定や、取引先全体のコンプライアンス強化が極めて重要となります。
◎ キャッシュフローへの影響
還付申請において、提出書類の不備や支払証憑の遅延があれば、手続きが長引いたり却下されるリスクがあります。その場合、還付が得られずキャッシュフローに直接的な悪影響が生じる可能性があります。特に資金繰りに依存度が高い外資企業にとっては、与信管理や資金計画をあらかじめ見直しておくことが求められます。
◎ 内部統制とコンプライアンス負担の増大
電子インボイスの全面義務化に伴い、会計システムの改修やスタッフ教育、内部承認プロセスの整備が欠かせません。エラーや遅延は直ちに差戻しとなるため、内部統制の強化が必須です。
◎ 透明性向上と監査リスク
税務データと税関データが即時突合されることで透明性は高まりますが、同時に監査リスクも増大します。誤入力や不一致が即座に当局に検知されるため、企業側のリスクマネジメントが一層重要となります。
以上、2025年7月施行のベトナム 輸出VAT還付制度の改正ルール、「政令181/2025/NĐ-CP」と「通達69/2025/TT-BTC」の概要を解説させて頂きました。今回の改正は「基準額そのものの変更」ではなく、既存の3億VND基準を前提としつつ、適用範囲・審査プロセス・電子化要件を一段と厳格にした点に特徴があります。外資系企業にとっては、単に制度理解にとどまらず、実務上の運用体制をどこまで整備できるかが今後の大きな課題となるでしょう。
本項の内容にご質問など御座いましたら、弊社へお気軽にお問い合わせください。