2025年に成立したベトナム新投資法(143/2025/QH15)により、外資企業の設立手続に関して重要な変更が示されました。
同法は2026年3月1日に施行され、投資環境の透明性向上や手続の簡素化を目的とした大幅な制度改正が行われています。
なお、新投資法の全体像については、以下の記事で詳しく説明しています。
従来は「投資プロジェクトの承認(IRC)」を取得した後に「企業登録(ERC)」を行う流れが一般的でしたが、新法では一定の条件のもとで、
ERC(企業設立)を先に行い、その後にIRCを取得する進め方が想定されています。
本稿では、この新しい設立の進め方について、実務上のメリットと留意点を整理します。
従来との違い(手続の全体像)
まず、設立手続の流れを整理すると以下の通りです。
▼設立フロー比較
| 項目 | 従来の進め方 | 新しい進め方(想定) |
| 手続の順序 | IRC → ERC | ERC → IRC |
| 法人格の取得タイミング | IRC取得後 | ERC取得時点で可能 |
| 準備業務の開始 | ERC取得後 | ERC取得後すぐ可能 |
| 投資判断の進め方 | 一括判断 | 段階的に検討可能 |
従来はIRC取得に一定期間を要するため、法人設立および各種準備の着手が後ろ倒しになる傾向がありました。
これに対し、新しい進め方では法人の先行設立により準備工程を前倒しできる点が特徴です。
ERC先行設立の実務メリット
▼主なメリット
| 項目 | 内容 | 実務上の効果 |
| 設立スピードの短縮 | ERCを先行取得 | 進出準備の早期開始 |
| 法人格の早期確保 | 契約主体として活動可能 | オフィス契約・採用準備が可能 |
| 資金準備の前倒し | 印鑑作成・口座開設対応 | 初期資金の整備 |
| 投資判断の柔軟化 | 会社設立と事業許可を分離 | 段階的な投資判断 |
① 設立スピードの向上
IRCの審査を待たずに法人設立が可能となるため、進出準備全体のリードタイム短縮が期待されます。
② 法人格の早期確保
ERC取得により現地法人としての法的主体が確立され、オフィス契約や業務委託契約、採用活動などを自社名義で進めることが可能になります。
③ 資金・インフラ整備の前倒し
法人印鑑の作成や銀行口座開設の手続に着手できるため、資金面の準備を早期に進めることができます。
④ 投資判断の柔軟化
会社設立と投資プロジェクトの承認を分けて検討できるため、市場調査や事業検討の結果を踏まえた段階的な投資判断が可能になります。
留意点(実務上の制約)
一方で、ERC先行設立には以下のような制約があります。
▼ERCのみの状態での制限
| 項目 | 可否 | 補足 |
| 法人設立 | 〇 | ERCにより可能 |
| 契約締結 | 〇 | 一般的な契約は可能 |
| 銀行口座開設 | △ | 金融機関の判断に依存 |
| 本格的な事業活動 | △ | 業種・内容により制限 |
| 工場建設 | × | IRC取得が前提 |
| 土地使用権取得 | × | IRC取得が前提 |
IRC未取得の段階では、投資活動に一定の制約がある点に注意が必要です。
さらに重要な点として、
ERC先行設立については、資本金払込や銀行口座開設等においてIRC取得が前提となる実務も存在するため、運用上の制約には十分な留意が必要です。
現時点の実務上の位置づけ
本制度は新投資法に基づくものですが、現時点では関連する政令や運用指針が完全には整備されていません。
そのため実務上は、
- 従来どおりIRC取得を前提とする対応が求められるケース
- 条件によりERC先行が認められる可能性があるケース
が混在しており、当局ごとに判断が分かれる状況です。
したがって、ERC先行設立を検討する場合には、
事前に管轄当局へ確認し、適用可否を個別に判断することが重要です。
まとめ
ERC先行設立という新しい進め方は、法人の早期設立を可能にすることで、進出準備のスピード向上や資金・契約面の前倒し、さらには投資判断の柔軟化といったメリットをもたらします。特に、現地拠点を早期に確保しながら市場の状況を見極めたい企業にとっては、有効な選択肢となり得ます。
一方で、IRC未取得の段階では実施できる事業活動に制限があるほか、資本金払込や銀行口座開設といった実務においてもIRC取得が前提とされるケースが存在します。また、制度自体が移行期にあるため、当局ごとの運用差が生じている点にも注意が必要です。
このように、ERC先行設立は有用なスキームである一方で、適用にあたっては制度面および実務面の双方を踏まえた慎重な検討が不可欠です。実際の進出に際しては、個別案件ごとに当局の運用状況を確認し、最適な進め方を判断することが重要となります。
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