2024年付加価値税法の改正案(ベトナムVAT法改正)概要と実務影響
ベトナム財務省は、2024年に「付加価値税法(VAT法)」48/2024/QH15号の一部を改正・補足を目的とした 「2024年付加価値税法の改正案」 を2025年10月に発表しました。
現在、財務省は付加価値税法第する法案を作成中であり、以下が主な改正内容となる見込みである。
この改正案は、現行のVAT法の運用上の課題を是正し、透明性・公平性・効率性の向上を目指すものです。
特に「課税対象外となる対象の追加」「税率に関する規定の改正」「VATの還付に関する規定の削除」という3つの柱が大きなポイントであり、ベトナムに進出している日本企業や製造・輸出企業にとって実務対応が求められる内容となっています。
改正の背景と目的
ベトナムは現在、東南アジア諸国の中でも急速な経済成長を続ける一方で、税務行政の複雑さや還付手続の遅延などが企業活動の障壁となっていました。
今回の「2024年付加価値税法の改正案」は、こうした課題を解消し、国際基準に合致した税制構造を整備することを目的としています。
特に、改正案では以下のような点が強調されています
- 税務制度の透明化:課税・非課税の範囲を明確にし、地方税務局による解釈のばらつきを抑制。
- 経済のデジタル化への対応:電子請求書や非現金決済の促進。
- 企業の税務負担の平準化:業種間・事業規模間の公平性を確保。
これにより、ベトナムで事業を展開する外資系企業、特に日本企業にとっては、コンプライアンス体制の見直しと社内オペレーションの再整備が重要になります。
主な改正内容
(1)課税対象外となる対象の追加(第5条第1項)
「2024年付加価値税法の改正案」における最大の特徴は、「課税対象外となる対象の追加」 です。
農業・林業・水産業分野における未加工または簡易加工品、リサイクル可能な副産物や再生資源などが、新たに「非課税」として追加される見込みです。
これまでベトナムでは、農産物や副産物などの一部が「課税対象外かどうか」曖昧な状態にあり、税務局ごとに異なる判断が下されるケースがありました。
今回の改正案では、非課税対象の明確化によって、企業側の税務リスク軽減と管理コストの削減が期待されます。
特に、現地で一次加工を行う日系製造業・食品企業・農産品関連企業などは、この改正によって仕入・販売のVAT計算方法が変わる可能性があるため、早期の税務分類の見直しが推奨されます。
(2)税率に関する規定の改正(第9条第5項)
続いて注目すべきは、「税率に関する規定の改正」 です。
現行の標準税率10%・優遇税率5%の区分は維持されるものの、一部の副産物やリサイクル素材に対しては、課税区分の見直しが検討されています。
たとえば、これまで低税率(5%)の対象とされていた特定の副産物や廃棄物が、標準税率(10%)へ引き上げられる可能性があります。
これにより、製造業や再生資源関連事業など、サプライチェーン全体でVAT負担が増加するケースも想定されます。
一方で、税率区分の明確化により、税務当局と企業間の解釈の違いによるトラブルは減少する見込みです。
特に日本企業にとっては、現地会計処理やERPシステム上の税率設定を正確に反映させることが重要な対応ポイントとなります。
(3)VATの還付に関する規定の削除・見直し(第15条第9項-C)
今回の改正案の中でも特に大きな変更が、「VATの還付に関する規定の削除」 に関する部分です。
これは、これまで広く認められていた一部のVAT還付制度(特に輸出企業・大型投資プロジェクト向け)を見直すもので、
不正還付や過剰申請を防止する狙いがあります。
還付制度の一部削除により、企業は従来の「仕入VAT先行回収」モデルから、キャッシュフロー管理を重視する運用へ転換を迫られることになります。
また、電子請求書や電子申告の活用により、審査の迅速化と透明性の向上が進む見込みですが、適用対象や手続条件はこれまで以上に厳格化されることが予想されます。
ベトナムで輸出や大型プロジェクトを行う日本企業は、VAT還付の適格条件や控除限度額を早期に確認し、財務計画を見直すことが求められます。
日本企業が留意すべきポイント
「2024年付加価値税法の改正案」は、ベトナムにおける日系企業の実務に直結します。
特に以下の3点について、早期対応が推奨されます。
1.課税区分と取引分類の見直し
製品・サービスが「非課税」または「課税対象」となるかを再確認し、契約書・請求書のVAT処理を明確化する。
2.会計・システム面の対応
税率区分やVAT還付条件の変更を踏まえ、会計ソフトやERPシステムの更新を実施。
日本本社との連携会計にも影響が出る可能性あり。
3.キャッシュフロー戦略の再構築
還付制度の削除により、資金回収までの期間が延びる可能性があるため、
現地子会社の資金繰りや内部送金計画を再設計する。
まとめ:今後の見通しと準備の重要性
「2024年付加価値税法の改正案」はまだ草案段階ではありますが、2025年中の国会承認、2026年1月1日から施行される予定です。
本改正は、ベトナム政府が税務透明化と国際調和を目指す中で、企業の税務負担や事務処理フローを大きく変える可能性を持っています。
現地に進出中の企業様としては、ベトナム現地の税務アドバイザーや専門家と連携し、
「課税対象外となる対象の追加」「税率に関する規定の改正」「VATの還付に関する規定の削除」などの実務影響を早期に把握することが肝要です。
税法改正の施行後に慌てることのないよう、事前の制度理解と内部統制の整備 が、今まさに求められています。
本項目に関するご質問や詳細なご相談につきましては、どうぞお気軽にお問い合わせください。




