ベトナム改正雇用法に関わる実施計画(首相決定第1850/QD-TTg号)の公布

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ベトナム雇用法の実施計画(首相決定1850/QĐ-TTg)を解説

先週2025年8月27日、ベトナム(改正)雇用法に関わる首相決定書(Quyết định số 1850/QĐ-TTg)が公布、即日施行されました。

この首相決定施行の目的は、2025年6月16日に国会で成立し、来年2026年1月1日に施行される「(改正)雇用法(Luật Việc làm)No.74/2025/QH15」の円滑な実施のため、具体的かつ統一的な施行計画を示したものです。

本項では、ベトナム改正雇用法(74/2025/QH15)及び、本首相決定(1850/QĐ-TTg)の内容について解説致します。

「Luật Lao động(労働法)」Luật Việc làm(雇用法)」 の違い

まずはじめに、ベトナム「労働法」と「雇用法」の違いについてですが、

Luật Lao động(労働法)

  • 性質 労働関係の「基本法」。

  • 対象範囲
    労働契約
    労働時間・休暇
    賃金・最低賃金
    労働安全衛生
    労使関係、労働組合
    女性・未成年者・外国人労働者の保護

  • 最新版 2021年1月1日施行の 2019年改正労働法典 が現行。

つまり労働法は、「会社と労働者の間のルール」を定めているものです。


2. Luật Việc làm(雇用法)

  • 性質 労働市場政策・社会保障に関する「特別法」。

  • 対象範囲
    雇用促進政策
    職業紹介サービス(公共・民間)
    労働市場情報システムの整備
    職業技能の評価・開発
    失業保険(給付+職業訓練支援)

  • 初版 2013年施行

  • 新法 2025年国会で改正可決 → 2026年1月1日施行予定
    (本項でご紹介する決定書1850号は、来年から施行される改正雇用法の準備計画を定めたものです)。

つまり雇用法は、「労働者をどう支援し、労働市場をどう整備するか」を定めているものです。


労働法と雇用法の相違点整理

項目 労働法(Luật Lao động) 雇用法(Luật Việc làm)
目的 労働契約と労働条件のルールを定める 雇用促進・失業保険・職業訓練など社会政策
主な対象 労働者と使用者の関係 失業者、就業困難者、公共雇用サービス、労働市場全体
内容 契約、賃金、労働時間、休暇、安全衛生、組合 雇用支援、失業保険、職業紹介、労働市場情報、技能開発
根拠 労働関係の基本法 労働市場政策の特別法
最新版 2019年 改正労働法(2021年施行) 2025年 改正雇用法(2026年施行予定)


今一度まとめますと、ベトナムにおける労働法(Luật Lao động)は、会社と労働者の「働くルール」を定めたもの、雇用法(Luật Việc làm) は、 労働市場全体・失業者支援・雇用促進の「政策法」であると言えます。両者は「相互補完関係」にあり、労働法典が“個別の労働契約”を規律するのに対し、雇用法は“労働市場全体と社会保障”を扱うイメージです。

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ベトナム改正雇用法(74/2025/QH15)の位置づけ

2025年に国会で採択された「ベトナム雇用法(改正法)」(*2026年1月1日施行予定)Luật Việc làm74/2025/QH15は、労働法(Luật Lao động)とは異なり、「雇用政策・労働市場全体の制度設計」を扱う法律です。労働契約や労働条件を規定する労働法と補完関係にあり、

・雇用促進
・公共職業紹介サービス
・職業訓練とスキル向上
・失業保険制度
・労働市場のデータベース整備

など、国家レベルでの「人材の流動性・活用」に関する枠組みを提供しています。

首相決定1850/QĐ-TTgの役割

本項でご紹介する本首相決定(Quyết định số 1850/QĐ-TTg)は、国会で成立した上述のベトナム雇用法(74/2025/QH15)を実際に運用するための実施計画を示したものです。

主な内容は以下の通りです。

1. 関係省庁・地方政府の役割分担

・ 労働傷病兵社会省(MOLISA):雇用政策、職業紹介、失業保険の統括
・ 財務省:基金の管理、予算措置の確保
・ 教育訓練省:職業訓練・スキル開発の制度整備
・ 地方人民委員会:地域での実務対応、雇用者・求職者への情報提供

2. 施行スケジュールの明確化

・2025年内に必要な政令・通達を整備
・2026年1月1日までに全国レベルで統一施行

3. 情報管理と監督体制の整備

・労働市場情報の一元管理(求職者データ、企業雇用データ、失業保険加入状況など)
・実施状況の定期報告とフォローアップ体制を確立

このように、首相決定は法律を実務レベルで運用するための「行動計画」であり、外資系企業にとっても実務上の遵守義務や手続きの指針となります。

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ベトナム改正雇用法(74/2025/QH15)の改正ポイント

ベトナム雇用法(74/2025/QH15)及びその詳細計画・運用方法を示した首相決定1850/QĐ-TTgがもたらす改革、従来のベトナム雇用法からの改正点は、以下の通りです。

1. 労働市場管理の近代化

・ 全国的に労働者・求人情報をデジタル登録・管理する「労働市場情報システム」を構築。
・ これにより労働移動の把握、統計の精度向上、職業紹介サービスの改善を実現。

2. 雇用支援制度の強化

・就職活動中の失業者、若年層、障害者、農村部の労働者など「就業困難層」に対する支援政策を法的に明確化。
・政府の予算や基金を活用した職業訓練、就業支援ローンなどを制度化。

3. 失業保険制度の拡充

・給付だけでなく、職業訓練費用の補助や再就職支援に重点を移す。
・デジタルIDや銀行口座を通じて手続の迅速化を進める。

4. 職業技能開発の制度改革

・教育訓練省主導で「技能開発を経済成長のカギ」と位置づけ、短期訓練・再教育・デジタル技能習得を推進。
・企業や職業訓練機関と連携し、労働者の「技能向上と再スキル化」を強化。

5. 雇用サービス機関の整備

・公的/民間の職業紹介センターの認可・監督制度を明確化。
・サービスの質向上を求め、標準化・透明性を高める。

6. 行政手続きの簡素化・電子化

・VNeID(ベトナム電子ID)を通じて、雇用保険/失業給付などの申請と受給をオンラインで可能に。
・これにより汚職や遅延を防ぎ、国民の利便性を向上。

要するに

この「雇用法」とその施行計画による改革は、

・ 労働市場を「紙と人づて」から「データとシステム管理」へ移行するデジタル改革
・ 失業保険を「お金の給付中心」から「再就職・再教育支援中心」へ転換する社会保障改革
・ 職業技能の国家戦略化による人材育成改革

を柱としています。


この改革は 「雇用政策の近代化」+「社会保障の機能転換」+「技能強化による労働力質向上」 の3本柱と言えるでしょう。

ベトナム改正雇用法(74/2025/QH15)施行による実務的影響

ベトナム改正雇用法は、来年2026年1月1日からの施行となりますが、外資系企業にとって直接的に留意すべき点は以下の通りです:

1. 失業保険(Unemployment Insurance)の義務遵守強化

・現在も外国人労働者は対象外ですが、ベトナム人従業員への加入管理が厳格化される見込みです。
・納付状況がデータベースで一元管理されるため、未加入や遅延が容易に把握され、行政処分リスクが高まります。

2. 労働市場データベースとの連携

・新制度では、企業が提出する雇用報告(従業員数、職種、雇用形態など)が統一システムで管理されます。
・外資系企業も、定期的な人員データ提出が求められるため、内部の人事管理体制を強化する必要があります。

3.職業訓練・スキル開発支援の活用

・国が推進する職業訓練・リスキリング政策に企業が参画しやすくなります。
・特に製造業やIT分野の外資系企業にとって、労働力確保とスキルアップの機会が拡大します。

4.労務コンプライアンスの透明化

・「労働法(労働契約・労働条件)」に加え「雇用法(雇用促進・社会保険制度)」の遵守状況も、税務や監査時に確認される可能性が高まります。
・実務上は、労働契約管理・保険納付・雇用報告を一貫して適正に運用することが重要です。

以上、(来年2026年1月1日から施行される)ベトナム改正雇用法(74/2025/QH15)及び、先月2025年8月27日即日施行の首相決定(1850/QĐ-TTg)について解説させて頂きました。

ベトナムの改正雇用法と首相決定1850号は、単なる法律遵守の要請ではなく、外資系企業にとって現地人材活用・業務効率化・コンプライアンス強化の好機となる制度です。正確な情報管理と電子手続きへの対応、職業訓練制度の活用を通じて、従業員の能力向上と企業競争力の強化を図ることが可能となります。外資系企業は、雇用法の施行を単なる義務と捉えるのではなく、戦略的に活用することで、ベトナムでの事業運営をより安定・効率的に進めることができます。

弊社では、2026年1月1日より施行される改正雇用法に関して、施行前の動向や関連法令の公布状況を注視するとともに、施行後の実務への影響についても継続的に確認してまいります。本項目に関するご質問や詳細なご相談につきましては、どうぞお気軽にお問い合わせください。