2025年ベトナム新法人所得税法(第67/2025/QH15号)の改正概要

2025年ベトナム新法人所得税法(第67/2025/QH15号)の改正概要

2025年6月14日、ベトナム国会は「ベトナム新法人所得税法(2025年法人税法、正式名称:第67/2025/QH15号)」を採択しました。本法は2025年10月1日に施行され、現行の法人税制度を大幅に刷新するものです。今回の改正は、国内企業のみならず外資企業やグローバル企業に直接影響を与えるものであり、投資戦略や税務コンプライアンスに大きな調整が求められる内容となっています。

採択日と施行日

  • 採択日(国会可決日):2025年6月14日
  • 施行日(効力発生日):2025年10月1日

2025年ベトナム新法人所得税法の目的

新法人所得税法は、単なる税率や優遇措置の修正ではなく、ベトナム経済の持続的発展と国際競争力強化を狙った包括的な改革です。背景には、急速に進むデジタル化、外資投資の高度化、国際的な課税ルールの再編があります。具体的な目的は以下の通りです。

1.国際的な税務基準との整合性

OECD/G20のBEPS(税源浸食と利益移転)対策や、グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)といった国際的な枠組みに合わせ、透明性の高い制度へ移行します。これにより、外資企業による過度な利益移転や租税回避を防止し、国際社会における信用を高めます。

2.デジタル経済・新ビジネスモデルへの対応

ECやSaaS、クラウド、動画配信など、従来の「物理的な拠点」を前提とする課税制度では把握できなかった収益に対応。デジタルPE(恒久的施設)の概念を取り入れ、拠点を持たない外国企業にも課税義務を課すことで、国内企業との公平性を確保します。

3.投資環境の改善と質的高度化

これまでの「外資誘致=優遇」から脱却し、ハイテク・再生可能エネルギー・R&D・環境保護といった重点分野への投資を厚く支援。労働集約型から知識集約・技術集約型への産業転換を後押しし、持続的成長を促進します。

4.税務コンプライアンスと透明性の強化

移転価格文書の提出義務強化、損金算入ルールの明確化、電子申告の標準化などにより、企業会計と税務当局の双方にとって効率的かつ透明な体制を構築します。

5.税収の安定確保

優遇措置の見直しや新たな課税対象の拡大を通じて、税収基盤を安定化。これにより、インフラ投資や社会保障など国家財政の持続性を確保し、経済成長の好循環を実現することが狙いです。

2025年ベトナム新法人所得税法の主な改正ポイント

1.法人税率の見直し

●標準税率:20%(FDI企業の基本税率)

●軽減税率(中小企業対象):

  ・15%(年間課税所得が3億VND以下)

  ・17%(3億VND~50億VND)

※軽減税率の適用条件には、企業規模や独立性などの基準が設けられており、外資系企業や関連会社の場合は適用除外となる場合があります。

●特定業種(石油、鉱物資源など):**25〜50%**の高税率が適用。

2.課税対象の拡大

従来の「恒久的施設(PE)を有する外国法人のみ課税対象」とする原則に加え、新法人所得税法では、電子商取引やデジタルサービスなど、物理的拠点を持たない外国法人によるベトナム国内での収益活動も、一定の条件の下で課税対象に含まれることが明確化されました。

●電子商取引(E-commerce)
●デジタルプラットフォームを通じたサービス提供
●越境EC取引、SaaS、クラウド等のオンラインサービス

これにより、ベトナム国内で所得を生じさせる活動を行う外国法人は、恒久的施設の有無にかかわらず、課税義務が生じる場合があります。
(※具体的な課税要件や申告方法は今後公布される政令・通達により詳細が定められる予定です。)

3.法人税優遇(インセンティブ)

新法人税法では、従来の法人税法同様に税優遇に対する記述があり、より適用条件が明確化されております。

●対象地域:
 特別経済区、経済的・社会的に困難または特別困難な地域に所在するプロジェクトには、一定期間の免税および減税措置が適用さ れます。

●対象業種:
 ハイテク、研究開発(R&D)、イノベーション、再生可能エネルギー、環境保護など、国家が重点支援する分野の事業活動には優遇税率や免税措置が認められます。

●既存FDI企業による拡張投資:
 拡張投資プロジェクトについては、追加投資部分が優遇要件を満たす場合に限り、一定の税制優遇の適用が可能です。

●個人事業からの法人化に関する取扱い:
 個人事業(hộ kinh doanh)から法人(doanh nghiệp)へ転換する場合の所得税免除措置は、国内個人事業の法人化を促進するためのものであり、一般的に外資系企業(FDI企業)には適用されない可能性があります。

●登録時の留意点:
 投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)の申請時に、事業分野・地域が優遇条件に合致しているかを事前に確認・登録することが重要です。

4.損金算入ルールの明確化

●関連者取引(移転価格取引):
 関連者間取引においては、独立企業原則(arm’s length principle)および実質的な取引実態に基づく価格設定が求められます。取引契約や証憑の適正性、比較可能性分析の文書化が義務付けられており、不備がある場合は損金算入が否認される可能性があります。

●借入利息の損金算入制限:
 借入利息の損金算入は、引き続き EBITDA(利息・税金・減価償却前利益)の30%を上限とする方向で維持されています(※詳細は今後公布予定の施行政令で確認が必要)。

●ロイヤリティ、管理費、技術料などの支払:
 支払先との契約、支払目的の正当性、ならびに**適切な証憑(請求書・契約書・成果報告等)**の整備が求められます。これらの要件を満たさない場合、損金算入が認められない可能性があります。

FDI企業は、これらの取引に関して税務当局の重点監査対象となる傾向が強いため、内部統制および移転価格文書管理の強化が不可欠です。

5.欠損金の繰越と科学技術基金

●欠損金の繰越期間
 事業活動で発生した欠損金は、最長5年間にわたり翌期以降の課税所得から控除することが認められます。
 ただし、繰戻控除は認められておらず、事業再編・合併等が行われた場合は**継続要件(事業実体の維持)**を満たさないと、繰越欠損の引継ぎが制限されることがあります。

●科学技術基金
 企業は課税所得の最大20%を限度として、科学技術発展基金に積立することが可能です。
積立額は法人税の課税所得計算上、損金算入(税控除対象)とされます。
ただし、5年以内に正当な科学技術活動に使用しなかった場合、または不適切な目的で使用した場合には、未使用額または不正使用額に対して追徴課税および延滞利息
が課されます。

6.経過措置(移行措置)

2025年10月1日以前に認可されたFDI企業(外国投資事業体)以前に認可されたFDI企業は、旧法優遇の継続または新法への移行を選択可能。自社に有利な選択を行うための検討が不可欠です。

これらの企業は、旧法人所得税法に基づく既存の税制優遇措置の継続適用または新法人所得税法(第67/2025/QH15号)に基づく優遇措置への移行のいずれかを選択することができます。

自社に有利な選択を行うため、課税シミュレーションや投資計画の見直し、移転価格や損金算入ルールとの整合性の確認が必要です。

外資企業が特に留意すべき点

  1. PEなしでも課税対象:SaaSやEC事業者は新たな納税義務を負う可能性が高い。
  2. 税率の区分:FDI企業は基本的に20%。軽減税率は適用外のため過大な期待は禁物。
  3. 移転価格規制の強化:OECD基準に沿った文書化体制が求められる。特に関連会社間取引が多い外資企業は監査リスクが上昇。
  4. 税優遇制度の限定化:従来の「外資なら優遇」はなくなり、ハイテクや環境分野への投資が優遇のカギとなる。
  5. 内部統制・システム整備:電子申告制度への適応が急務。会計システムの更新や社内研修も必要。
  6. 経過措置の選択:旧法と新法、どちらが有利かを比較し、早期に戦略を立てることが求められる。

まとめ

2025年ベトナム新法人所得税法(第67/2025/QH15号)は、2025年6月14日に可決され、2025年10月1日に施行される歴史的な改正です。課税対象の拡大、税率体系の整理、優遇措置の再編、移転価格規制の強化など、企業経営に直結する変更点が数多く盛り込まれています。

特に外資企業にとっては、従来の「外資誘致型優遇」から「重点分野限定型優遇」への移行により、投資戦略を再考する必要があります。また、デジタル課税の導入により、PEを持たない外国法人でも課税対象となる点は大きなインパクトです。

企業は内部統制、会計システム、移転価格ポリシー、税務シミュレーションを含めた包括的な対応を迫られています。外資企業にとっては、単にリスク回避をするだけでなく、新法を踏まえた新たな投資機会の発掘と成長戦略の再構築が求められる局面といえるでしょう。

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