ベトナムで事業を展開する企業は、会社の株主や出資者だけでなく、企業を最終的に所有・支配する個人に関する情報についても確認が必要です。
ベトナムでは、企業の実質的所有者に関する情報を把握し、企業登録手続きの中で申告・管理する制度が整備されています。2026年には、未申告企業の確認が進められ、各地の財務局などから申告や情報の補足を求める案内が出されています。
特に注意したいのが、申告期限です。2026年10月31日を期限とする地域がある一方、11月や12月を期限としている地域もあります。ベトナムに現地法人を持つ日本企業は、自社の所在地を管轄する行政機関の案内を確認し、必要な手続きを進めることが重要です。
本記事では、実質的所有者の定義、制度導入の背景、申告対象となる企業、必要な手続き、地域別の申告期限について解説します。
実質的所有者情報の申告制度が導入された背景
ベトナムで実質的所有者情報の申告制度が導入された背景には、企業の所有構造の透明性向上やマネーロンダリング対策に加え、国際的な基準への対応があります。
ベトナムでは、2025年の企業法改正により、企業の実質的所有者に関する規定が導入されました。金融活動作業部会(FATF)は2023年6月、ベトナムを監視強化対象国・地域(グレーリスト)に追加しており、実質的所有者に関する正確で最新の情報を把握できる仕組みの整備も、国際的な要請への対応の一環となっています。
今回の制度は、登記上の株主や出資者だけでなく、その背後で企業を最終的に所有・支配する個人を把握し、企業の所有・支配関係をより明確にすることを目的としています。
これに伴い、企業には実質的所有者に該当する人物を確認し、必要な情報を所定の方法で申告・管理することが求められます。
実質的所有者の申告制度とは?
ベトナムでは、企業の所有関係や支配関係を把握できるようにするため、実質的所有者に関する情報を企業登録制度の中で取り扱っています。
主な根拠となるのは、2025年6月30日付の政令第168/2025/NĐ-CP号と、2026年7月23日付の政令第296/2026/NĐ-CP号です。また、申告に使用する様式については、2026年8月21日に公布・施行された財務省通達第121/2026/TT-BTC号で改正が行われています。
| 法令 | 主な内容 |
| 政令第168/2025/NĐ-CP号 | 企業登録や実質的所有者の特定・申告に関する規定 |
| 政令第296/2026/NĐ-CP号 | 実質的所有者の判断基準や申告手続きなどに関する改正 |
| 通達第121/2026/TT-BTC号 | 企業登録などで使用する申請書・届出書の様式改正 |
実質的所有者の申告では、登記上の株主や出資者の情報だけでなく、企業を最終的に所有・支配している個人を把握することが重要になります。
そのため、日本企業がベトナムに現地法人を設立している場合も、直接の出資者が日本法人であるという情報だけで、確認が完了するわけではありません。親会社を含む資本関係を整理し、最終的な所有者・支配者を確認する必要があります。
実質的所有者に該当するのは誰か
ベトナムの制度では、企業を直接または間接的に所有している個人や、企業を実際に支配している個人が実質的所有者に該当する可能性があります。
主な判断基準は次のとおりです。
| 判断基準 | 概要 |
| 資本の保有 | 定款資本の25%以上を直接または間接的に保有している個人 |
| 議決権の保有 | 議決権付き株式の25%以上を直接または間接的に保有している個人 |
| 企業に対する支配力 | 取締役や経営責任者の選任・解任、定款変更、組織再編、解散などの重要事項を支配できる個人 |
例えば、日本の親会社がベトナムの現地法人に出資している場合、登記上の直接の出資者は日本法人となります。しかし、その日本法人を含む資本関係をたどり、最終的に現地法人を所有・支配している個人を確認する必要があります。
また、持分が25%未満であっても、企業の重要な意思決定を実際に支配できる場合には、実質的所有者に該当する可能性があります。
実質的所有者の判断にあたっては、出資比率だけで機械的に判断するのではなく、法令上の基準に照らして所有関係や支配関係を確認することが大切です。
どのような企業が対応する必要があるのか
実質的所有者情報の申告は、新たに会社を設立する企業だけでなく、既存の企業登録情報を管理するうえでも関係します。
2026年10月には、中央機関から各地の財務局などに対し、実質的所有者情報の申告状況を確認するよう求める公文書が出されています。特に、2025年7月1日以降に設立された企業や、登録内容を変更した企業のうち、必要な情報が申告されていない企業について確認が進められています。
現地法人を運営する企業は、次の点を確認しておきましょう。
| 企業の状況 | 確認したい事項 |
| 2025年7月1日以降に設立した企業 | 設立時に実質的所有者情報を申告しているか |
| 同日以降に登録内容を変更した企業 | 変更登記の際に必要な情報を提出しているか |
| 以前から事業を継続している企業 | 過去の申告状況や、所管機関からの追加対応の案内がないか |
| 日本企業が出資する現地法人 | 親会社を含む資本関係を整理し、最終的な所有者・支配者を特定できているか |
企業の設立時期や過去の登録手続きによって、必要な対応は異なる場合があります。自社がどのような手続きを済ませているかを確認したうえで、追加の申告や情報補足が必要かを判断することが重要です。
申告に使用する書類と手続き
実質的所有者情報の申告には、通達第121/2026/TT-BTC号で定められた様式第10号「企業の実質的所有者一覧」が関係します。また、既存企業の登録情報を変更する場合には、様式第12号による申請・通知が関係することがあります。
| 様式 | 主な用途 |
| 様式第10号 | 実質的所有者一覧の申告 |
| 様式第12号 | 企業登録内容の変更などに関する申請・通知 |
具体的な提出書類や申請方法は、企業の状況や手続きの内容によって異なります。地方当局の案内に従い、必要に応じて委任状などの書類も準備します。
申告にあたっては、まず自社の出資関係を整理し、直接の株主・出資者から最終的な個人の所有者・支配者まで確認します。そのうえで、適用される様式を用いて、所管の企業登録機関に必要な情報を提出します。
また、実質的所有者や申告済みの情報に変更が生じた場合には、変更内容に応じた届出が必要になることがあります。申告を一度済ませれば、その後の情報更新が不要になるわけではないため、出資構成や支配関係が変わった際にも注意が必要です。
地域別の申告期限
2026年10月には、各地の財務局などが実質的所有者情報の申告や補足を促す案内を公表しています。申告期限は地域ごとに異なるため、現地法人の登記所在地を確認したうえで、管轄機関の案内に従って対応することが重要です。
確認できた主な地域の期限は、次のとおりです。
| 地域 | 申告・情報補足の期限 |
| クアンニン省(Quảng Ninh) | 2026年10月31日まで |
| ラムドン省(Lâm Đồng) | 2026年10月31日まで |
| フート省(Phú Thọ) | 2026年11月15日まで |
| カインホア省(Khánh Hòa) | 2026年11月20日まで |
| ダナン市(Đà Nẵng) | 2026年11月30日まで |
| ハイフォン市(Hải Phòng) | 2026年12月10日まで |
| ドンナイ省(Đồng Nai) | 2026年12月15日まで |
※各地域の財務局などが公表した案内に基づく期限です。対象企業や必要な手続きは地域ごとに異なる場合があるため、最新の公式通知をご確認ください。
例えば、クアンニン省やラムドン省では10月末が期限とされています。一方、フート省やカインホア省では11月、ダナン市では11月末、ハイフォン市やドンナイ省では12月が期限として案内されています。
このように、地域によって申告・情報補足の期限が異なるため、他の地域の期限をそのまま自社に当てはめないことが大切です。
また、上記は確認できた地域の一部です。ハノイ市やホーチミン市を含め、表に掲載していない地域については、管轄する財務局などの最新案内を確認してください。
すでに行政機関から通知を受け取っている企業は、通知に記載された期限や提出方法を確認し、必要な手続きを進めましょう。申告に必要な情報の整理には時間がかかる場合もあるため、期限が迫ってから対応するのではなく、早めに準備を進めることをおすすめします。
申告漏れを防ぐために確認したいこと
実質的所有者情報の申告や更新に不備がある場合、企業登録手続きで追加対応が必要になったり、法令に基づく行政処分の対象となったりする可能性があります。
特に、複数の法人を経由した出資や、海外の親会社を含む資本構成を持つ企業では、最終的な所有者・支配者の確認に時間がかかる場合があります。
現地法人を運営する企業は、次の点を確認しておきましょう。
- 実質的所有者に該当する個人を特定できているか
- 直接出資者だけでなく、間接的な所有関係も整理できているか
- 設立時や直近の変更登記の際に、必要な情報を申告しているか
- 申告に使用する様式が最新のものになっているか
- 所在地を管轄する当局から、申告や情報補足に関する案内を受けていないか
- 出資関係や支配関係に変更があった場合の届出体制が整っているか
申告の必要性や具体的な対応は、企業の設立時期や登録状況などによって異なります。自社の状況を整理し、不明点がある場合は、現地の専門家や所管機関に確認することが重要です。
まとめ
ベトナムでは、企業の実質的所有者を把握し、必要な情報を申告・管理する制度が整備されています。制度導入の背景には、企業の所有構造の透明性向上やマネーロンダリング対策、国際的な基準への対応があります。
2026年には未申告企業の確認が進められており、現地法人を運営する企業は、自社の申告状況を改めて確認しておくことが重要です。
実質的所有者は、登記上の株主や出資者だけでなく、間接的に企業を所有する個人や、実際に企業を支配する個人も対象となる可能性があります。日本企業がベトナムに現地法人を設立している場合には、親会社を含めた資本関係を整理し、必要な申告を行っているかを確認しましょう。
また、申告期限は地域によって異なり、10月末から12月にかけて期限が設定されています。現地法人の所在地を管轄する行政機関の案内を確認し、必要な手続きを計画的に進めることが大切です。
MEIKEIでは、ベトナムへの進出準備や現地法人の設立から、進出後の事業運営まで、日本企業の状況に応じた支援を行っています。ベトナムの企業登録や法制度への対応について確認したいことがございましたら、お気軽にご相談ください。
参考法令・情報
- 企業法改正法第76/2025/QH15号
- 政令第168/2025/NĐ-CP号(企業登録に関する政令)
- 政令第296/2026/NĐ-CP号(関連規定の改正)
- 通達第121/2026/TT-BTC号(企業登録等の様式改正)
- 2026年10月7日付公文書第3164/DNTN-GS号(実質的所有者情報の申告状況の確認に関する公文書)
※本記事は、公開されている法令および行政機関の案内をもとに制度の概要を解説したものです。個別企業への適用、提出書類、期限については、最新の法令および所管機関の案内をご確認ください。






