― 指令第20号(Chỉ thị 20/CT-TTg)に基づく大気汚染対策の全容 ―
ハノイ市は、環境汚染の深刻化と温室効果ガス削減の必要性を背景に、ガソリン車やバイクの使用を段階的に禁止する方針を正式に打ち出しました。これは2025年に発表された首相指示第20号(Chỉ thị 20/CT-TTg)に基づくもので、大気汚染の改善、都市環境の質向上、そして持続可能な都市交通への転換を目的としています。
同指示では、2030年までにハノイ市内の特定エリアでガソリン車・ガソリンバイクの走行を制限し、2040年までに全国的な段階的廃止を目指すとしています。公共交通機関や電動車への切り替えが推奨され、充電インフラの整備や車両購入補助金などの支援策も盛り込まれています。
本政令の発表以来、ハノイ市民の関心は非常に高く、今後の動向や市民生活への影響について、街中やメディアでも大きな話題となっており、本項では、「ハノイ市による段階的なガソリン車・バイクの使用禁止」に向けた関連法令とその内容について詳しく解説いたします。
法令の原文と要点
指令第20号は、正式名称を「Về một số nhiệm vụ cấp bách, quyết liệt ngăn chặn, giải quyết tình trạng ô nhiễm môi trường(環境汚染の防止・解決に関する緊急かつ断固たる任務)」といい、複数の条項で交通部門の温室効果ガス排出削減に触れています。
特に注目すべきは、交通規制に関する以下の記述です。
“Từ ngày 1/7/2026, không có xe mô tô, xe gắn máy sử dụng nhiên liệu hóa thạch (xăng, dầu) lưu thông trong khu vực đường Vành đai 1 của thành phố Hà Nội.”
(2026年7月1日より、ハノイ市の環状第1線内において、化石燃料(ガソリン・ディーゼル)を使用する二輪車の走行を禁止する)
さらに、段階的拡大についても明記されています。
“Từ ngày 1/1/2028, hạn chế xe ô tô cá nhân sử dụng nhiên liệu hóa thạch trong đường Vành đai 1 và Vành đai 2; từ năm 2030 tiếp tục mở rộng thực hiện trong đường Vành đai 3.”
(2028年1月1日より、第1および第2環状線内で化石燃料車の利用を制限し、2030年からは第3環状線内まで拡大する)
このように、文書は明確な日付と対象範囲を定め、法的拘束力を持つ形で市の交通政策に方向性を与えています。
実施スケジュールの詳細
実施日 | 対象区域 | 対象車種 | 内容 |
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2026年7月1日 | 環状第1線内 | ガソリン・ディーゼル二輪車(オートバイ・モペッド等) | 通行全面禁止 |
2028年1月1日 | 環状第1・第2線内 | ガソリン・ディーゼル自動車および二輪車 | 個人所有車の制限開始 |
2030年以降 | 環状第3線内 | 化石燃料車両全般 | 規制対象区域を最大化 |
背景:なぜここまで厳しい規制なのか
ハノイは現在、約700万台以上の二輪車と、増加傾向にある自動車を抱えています。これらは市民の主要な交通手段である一方、深刻な大気汚染の原因でもあります。特に乾季にはPM2.5濃度が世界保健機関(WHO)の基準値を大きく上回り、健康被害や観光イメージの低下を招いてきました。
政府は過去数年間、排ガス基準の強化や電動車の普及促進など段階的な施策を進めてきましたが、それだけでは改善が見込めず、今回のような明確な使用禁止スケジュールを打ち出すに至ったのです。
支援策とインフラ計画
指令第20号では、単なる規制ではなく、移行を円滑に進めるための支援策も同時に示されています。
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車両買い取り・乗り換え補助
中心部での使用禁止対象となる約45万台のガソリン二輪車を対象に、買い取りや電動車への乗り換えを支援。登録料や一部税金の免除も検討中。 -
公共交通の電動化
小型電動バス(8〜12人乗り)やEVタクシーの導入、都市鉄道との接続強化によって、個人所有車両への依存を減らす。 -
充電ステーションの整備
市内各所にEV充電ポイントを設置し、夜間・昼間双方の利用を可能にする。また、駐車場や商業施設との併設型インフラも推進。 -
事業者への優遇政策
EVやバッテリー製造企業、インフラ整備業者への税制優遇や融資支援を導入予定。
国際事例との比較
ハノイ市の施策は、欧州や中国の大都市が実施している「低排出ゾーン(LEZ)」や「ゼロエミッションゾーン(ZEZ)」と似た枠組みを持っています。たとえば北京や上海でも、特定区域内のガソリン二輪車禁止が既に実施され、空気質の改善が報告されています。ただし、インフラ整備や市民の受け入れ度合いによって成果に差が出るため、ハノイでも事前準備の質が成否を左右します。
市民生活への影響
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通勤パターンの変化:多くの市民が公共交通やカーシェアリングを利用するようになり、都心部の交通渋滞が緩和される可能性。
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中古市場の動向:禁止対象車両の価値下落により、中古市場が一時的に混乱する見通し。
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新産業の発展:電動バイクやEVタクシー事業、バッテリー交換サービスなど新しいビジネスモデルが成長。
課題と今後の展望
最大の課題はインフラ整備のスピードです。十分な充電設備や駐車スペースが確保されなければ、市民は電動車への移行に不安を感じます。また、低所得層への支援や郊外地域の公共交通充実も重要なポイントです。
今後は、ハノイ市議会が条例(Nghị quyết)や施行細則を策定し、罰則や免除条件を明確にする予定です。その際には市民・事業者からの意見募集も行われ、より実情に即した制度設計が求められます。
本規制もたらす好影響と将来への期待
今回のガソリン車・バイク使用禁止ルールは、短期的には移行コストやインフラ整備負担などの課題を伴いますが、中長期的にはベトナム社会に多くの好影響をもたらすと考えられます。
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大気環境の改善:排ガス削減によりPM2.5濃度が低下し、市民の健康リスクが軽減されます。
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都市の静音化:電動車両の普及により交通騒音が減少し、都市の居住環境が向上します。
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グリーン産業の成長:電動車両、再生可能エネルギー、リサイクル分野で新規雇用が創出されます。
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国際的評価の向上:環境政策に積極的な都市として、観光・投資誘致の面でブランド価値が高まります。
この政策は、単なる交通規制ではなく、持続可能な都市づくりへの第一歩です。ハノイ市が掲げる「緑の首都」ビジョンの実現に向け、環境・経済・社会の三位一体で進む大規模な変革といえるでしょう。
以上、「ハノイ市による段階的なガソリン車・バイク禁止に関わる新ルール」について、ご紹介いたしました。
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