税務手続の明確化と進出企業の実務負担軽減を目的とした改正
ベトナム政府は2025年12月31日、政令373/2025/NĐ-CP(以下「本政令」)を公布し、2026年2月14日より施行することを定めました。本政令は、税務管理法の詳細を定める既存の政令126/2020/NĐ-CPを一部改正・補足するものであり、税率や課税範囲を変更するものではなく、税務申告・納税手続の運用面を整理・明確化することを主な目的としています。
近年、ベトナムでは外国企業の進出増加やビジネス形態の多様化により、税務申告の周期、申告先税務署、土地関連税の発生時点などを巡り、実務上の混乱や解釈のばらつきが課題となっていました。本政令は、そうした実務上の問題を整理し、納税者・税務当局双方の負担を軽減するための制度調整型の改正と位置づけられます。
税務申告周期(申告頻度)に関する整理
本政令の大きなポイントの一つが、付加価値税(VAT)と個人所得税(PIT)の申告周期の関係整理です。
従来、VATについて月次申告か四半期申告かの選択基準は存在していましたが、給与にかかるPITの申告周期との関係が明確でないケースも見られました。本政令では、VATを四半期申告できる条件を満たす納税者は、PITについても四半期申告を行うことが可能であることが明確に示されました。
また、四半期申告を行っていたものの、実際には条件を満たしていなかった場合の対応についても整理されています。納税者自身が条件未達に気付いた場合、あるいは税務当局がそれを指摘した場合には、月次申告へ切り替え、過去分の申告を修正する必要がありますが、この切り替えに伴う申告遅延について行政罰を課さないことが明記されました。
これは、特に外資系企業や新規進出企業にとって、制度理解不足によるペナルティリスクを軽減する実務上重要な改正といえます。
個人所得税(PIT)確定申告先の明確化
本政令では、複数の雇用主から給与を受け取る個人のPIT確定申告先についても規定が整理されました。
近年、ベトナムでは、外国企業の駐在員が日本本社とベトナム現地法人の双方から報酬を受け取る、いわゆる「スプリット・ペイロール」や、グループ会社間での兼務が一般化しています。このようなケースでは、どの税務署に確定申告を行うべきかが不明確となり、実務上の混乱を招くことがありました。
本政令では、最も高額な給与を支払っている雇用主の管轄税務署に確定申告を行うという原則が明確化されています。さらに、誤った税務署に申告した場合であっても、税務当局間での調整・移管を行うことが想定されており、納税者に過度な負担が生じないよう配慮されています。

土地・工場関連税務の取り扱い明確化
本政令では、土地使用料や土地賃貸料などの土地関連税務についても条文の整理が行われています。
特に、工業団地内で工場や倉庫を賃借している企業においては、契約開始日、契約変更日、名義変更日などを巡り、「いつから納税義務が発生するのか」「税務署からいつ通知が来るのか」が不明確なケースがありました。本政令では、土地法の最新規定との整合性を図りつつ、納税義務発生日や税務署による通知期限を明確化しています。
これにより、企業側としては将来的な税務リスクの見通しが立てやすくなり、突然の追徴課税や認識の相違によるトラブルを回避しやすくなると考えられます。
本政令の位置づけと企業への影響
本政令は、新たな税負担を課すものではなく、税務手続の透明性と予測可能性を高めることを目的とした改正です。そのため、通常の法人所得税(CIT)の計算や税率、VAT税率自体に直接の変更はありません。
一方で、以下のような企業にとっては実務上の影響があります。
- ベトナムに現地法人・支店を有する企業
- 駐在員や複数給与体系を採用している企業
- 工業団地で工場・倉庫を賃借している製造業・物流業
これらの企業においては、申告周期、申告先、土地関連税務の確認を改めて行うことが望まれます。
まとめ
政令373/2025/NĐ-CPは、税率や課税対象を変更するものではなく、税務管理法の運用面における不明確さや実務上の混乱を整理することを目的とした改正政令です。特に、申告周期の判断、申告先税務署の特定、土地関連税務の発生時点といった、企業が日常的に直面しやすい実務論点について、一定のルールを示した点に大きな意義があります。
これまで、ベトナムでは法令上の原則は存在するものの、実務運用や解釈が税務署ごとに異なるケースも少なくなく、特に外資系企業や新規進出企業にとっては、意図せずリスクを抱える要因となっていました。本政令は、そうした状況を踏まえ、「誤りを罰する」よりも「正しい手続へ円滑に修正させる」ことを重視する姿勢を示したものと評価できます。
また、VATとPITの申告周期の整理や、複数給与を受け取る個人の確定申告先の明確化は、日系企業を含む外国企業の実務負担を軽減し、税務コンプライアンスの予見可能性を高める効果が期待されます。土地・工場関連税務における納税義務発生日や通知期限の明確化についても、将来的な税務リスク管理の観点から重要な改正といえます。
一方で、本政令の施行により自動的に全ての手続が簡素化されるわけではなく、各企業が自社の申告方法や内部運用を再確認することが前提となります。特に、申告周期の適否、駐在員や兼務者の給与体系、土地・工業団地契約の内容については、改めて整理・点検を行うことが望まれます。
総じて、本政令は、ベトナムで事業を行う企業に対し、税務手続の透明性と安定性を高める方向性を示した制度改正であり、中長期的には外資系企業にとっても事業環境の改善につながる内容といえます。今後は、本政令の趣旨を踏まえた実務運用の定着状況や、関連する通達・ガイダンスの動向にも引き続き注視していく必要があります。




