2025年7月から全面展開:ベトナムにおける電子ID制度「VNeID」について

ベトナム、電子身分証システム「VNeID」を全面展開:2025年7月から企業・外国人に義務化されたVNeID登録とは?

2025年7月より、ベトナム政府は国内に居住する外国人個人および外資系法人を対象に、電子身分証明アプリケーション「VNeID(Vietnam Electronic Identification: Ứng dụng Định danh điện tử)」の導入を正式に開始しました。

ベトナムVNeID制度により、これまで紙ベースで行われていた本人確認手続きや、官公庁における煩雑な対面申請の多くが、今後はスマートフォンなどのデジタルデバイスを通じて完結可能となります。

このVNeID制度、今回の外国人・外国法人への拡大以前に、すでにベトナム国民およびベトナム企業・団体に対しては段階的に導入が進められてきたものです。2021年以降、国内のベトナム人個人には「レベル1(基本情報)」および「レベル2(顔認証や指紋認証を含む高度な本人確認)」の電子IDが発行されており、行政手続き、銀行、保険、税務といったさまざまな分野での利用が急速に広がっています。

また、2024年以降は、法人や団体にもVNeIDの利用が義務付けられ、税務・労務関連申請、電子契約、電子請求書発行などの場面での活用が推進されています。

そして2025年7月からは、この制度の適用範囲が外国籍の個人(例:在住外国人、就労ビザ・TRC保持者)や、ベトナム国内に法人を持つ外資企業にまで拡大され、すべての住民・法人が統一された電子ID基盤のもとで管理・運用される体制が整いつつあります。

今後、外国人がベトナムで生活・就労・経営活動を行ううえで、このVNeIDは「パスポートやレジデンスカードに次ぐ重要な本人確認手段」として必須の存在になるといえます。

このように、VNeIDの制度はベトナム社会全体における行政のデジタル化・効率化を推進する中核インフラとして位置づけられており、外国人および外資企業にとっても、避けては通れない制度変更となっています。

本記事では、ベトナム電子ID制度(VNeID)導入の背景や、外国人・外資法人にとっての影響、登録の手順、運用上の注意点までを幅広く解説いたします。

(外国人)個人向け: 個人電子身分証「VNeIDレベル2」について

■ 制度の概要と導入の目的

VNeIDレベル2とは、ベトナム公安省が発行する本人確認に特化した電子IDで、個人の顔画像、指紋データ、生年月日、国籍、在留資格などの情報が国家データベースと紐付けられたものです。これにより、本人確認が必要な各種サービスを、スマートフォンの専用アプリから安全かつ迅速に利用できるようになります。

この制度は、デジタル行政の推進、不正防止の強化、および外国人住民への公平なサービス提供を目的としており、ベトナム国内に6ヶ月以上滞在する外国人は、すべて対象とされています。

■ 全国統一の登録キャンペーン

制度開始にあわせて、2025年7月1日から8月19日まで、政府主導による集中登録キャンペーンが全国で展開されています。登録は、ハノイ・ホーチミン市をはじめ、各省・市の公安機関(入国管理局、警察署など)にて受付されており、現地に住む外国人にとってはこの期間中の申請が推奨されています。

■ 登録が必要な外国人とは?

この電子IDの登録義務は、**一時滞在カード(Temporary Residence Card)または永住カード(Permanent Residence Card)**を保持しているすべての外国人に適用されます。観光ビザなどの短期滞在者は原則として対象外ですが、就労や配偶者ビザで中長期的に滞在している場合は登録が必須です。

また、6歳以上の未成年者についても登録対象となっており、14歳未満の場合は保護者による代理申請が可能とされています。ご家族で長期滞在している場合は、お子さまの登録についても併せて準備しておくとよいでしょう。

■ 電子IDが活用できる場面とは?

・銀行口座の開設
・住宅賃貸契約の本人確認
・運転免許証の再発行
・ビザ延長・在留更新
・医療機関での本人確認 など

VNeIDにパスポートや一時滞在許可証(TRC)情報が紐づけられている場合、ホテルなどベトナム国内の宿泊施設でも身分証明書として提示出来るようになります。スマートフォン画面での提示のみで本人確認が可能となる方向で、運用が進んでおり、すでに一部の地域・施設では、VNeIDを使った本人確認が試験的に導入されています。

ベトナム政府は、すべての行政・民間サービスにおいてVNeIDを活用できる社会の実現を目指しており、宿泊施設での利用はその一環です。将来的には、ホテルチェックインだけでなく、空港搭乗、病院受診、銀行口座開設、税務署手続きなどでもVNeIDの利用が広がる見込みです。

【外国人個人】VNeID レベル2 登録手続きの流れ

手順 内容 補足・注意事項
① 事前準備 以下の書類や情報を揃える:
・有効なパスポート(原本)
・一時滞在カード(TRC)または永住カード(PRC)
・ベトナム国内の電話番号
・Eメールアドレス
・TK01申請フォーム(手書きまたは印刷)
携帯番号はVNeIDアプリの認証用に使用。Eメールは通知の受け取り先となる。
② 公安機関へ訪問 地方公安局(Công an)または入国管理局(Cục Quản lý Xuất nhập cảnh)へ出向いて申請を行う 多くの場合、午前中に訪問するのがスムーズ。通訳者の同行を推奨(英語が通じない場合あり)。
③ 対面登録 申請書と書類を提出後、顔写真の撮影および指紋登録が行われる 申請時に本人確認が完了すると、その場でデータベース照合へ進む。
④ 審査と発行 ・登録情報に問題なければ3営業日以内に発行
・追加照合が必要な場合でも最大7営業日以内
SMSとEメールで発行通知が届く。アプリ利用に必要なIDとOTPが同封される。
⑤ アプリで有効化 VNeIDアプリ(iOS/Android)をダウンロードし、IDとOTPで初期ログイン 7日以内に有効化を完了しない場合は無効になる可能性があるため要注意。

日常生活や行政サービスのあらゆる場面で、VNeIDが「デジタル身分証明書」として機能します。今後のベトナム滞在において、なくてはならない存在になるといえるでしょう。

Bana Hills2

企業(法人)向け: 法人電子身分証「VNeID」について

■ 制度変更の背景

ベトナム政府は、2025年7月施行の「政令第69号」により、これまで利用されていた従来型の電子政府ポータル(National Public Service Portal)上の法人アカウントをすべて廃止し、企業・団体の電子IDをVNeIDに一本化しました。
この変更により、政府関連の申請・届出・ライセンス管理等を行うためには、法人としてVNeIDアカウントを保有していることが前提となります。対象はベトナム国内に存在するすべての法人・組織(外資系含む)です。

■ 登録に必要な要件

法人IDを申請するにあたり、企業の代表者(または正式に委任された者)が、事前に個人用のVNeIDレベル2を取得していることが条件です。これは、法人アカウントの申請を行う際、代表者の本人確認が不可欠であるためです。

特に外国人が法定代表者となっている企業の場合、代表者自身のVNeID取得が完了していないと、法人としてのアカウント登録が受理されないため注意が必要です。

■ 実務上の注意事項

・登録情報に少しでも誤りがあると、手続き全体が差し戻される可能性があります。特に外国籍の代表者の場合、パスポート記載情報、会社設立時の登記情報との一致が重要です。

・VNeIDを取得していない場合、今後、行政手続きができなくなり、業務に支障が出るリスクがあります。

・委任手続きで申請する場合でも、委任状や本人確認書類の正確性が求められます。

■【法人(企業)】VNeID 企業アカウント 登録手続きの流れ

手順 内容 補足・注意事項
① 代表者の準備 法定代表者または委任者が以下を準備:
・個人VNeID(レベル2)を事前に取得済であること
・企業登記情報(会社名、法人番号、本社住所など)
・TK02申請フォーム
外国人代表者の場合、先に個人IDを取得しておかないと法人IDの申請ができない。
② オンラインまたは窓口申請 VNeIDアプリからログインし、法人申請をオンラインで行う。または、申請書TK02を警察署に直接提出 法人情報は国家企業データベースと照合されるため、登記内容と完全に一致していることが必要。
③ 情報照合・審査 ・記載情報に誤りがない場合、3営業日以内に審査完了
・修正や照合に時間がかかる場合は最大15営業日
法人名、所在地、登記番号などの細かい違いで差し戻される例があるので注意。
④ 発行と通知 法人アカウントの発行通知が、VNeIDアプリまたはEメール・SMSで届く 通知が届いたら速やかに有効化手続きを進める必要がある。
⑤ アカウント有効化 発行から7日以内にログイン・初期設定を完了し、有効化を行う 有効化が遅れるとアカウントが無効になるため、すぐにアクティベーションすることが重要。

今後のステップと推奨対応(個人登録+法人登録)

1. 外国人居住者の方は、早めに地元公安機関でVNeIDの申請を行ってください。
2. 法人の代表者または申請担当者も、個人用の電子IDをまず取得してください。
3. 法人情報に間違いがないか、登記内容と照合しながら正確に申請しましょう。
4. 旧来のオンラインアカウントは今後使えなくなるため、VNeIDアカウントへの切替を急ぐ必要があります。

以上、2025年7月1日から本格導入された外国人個人及び企業を対象としたベトナムの電子ID(VNeID)制度について、ご紹介いたしました。
本記事に関するご質問などございましたら、是非お気軽にお問い合わせくださいませ。