– ベトナムのEPE企業について詳しく解説-
ベトナムのEPE企業の定義、EPE&Non-EPEの違いやメリットデメリットなど
ベトナムへ新たに進出を検討する製造系の企業様は、「EPE企業とNon-EPE企業」という言葉をリサーチされたことがあると存じますが、いずれもベトナムで製造事業を主とした現地法人を設立する際に選択を求められる企業形態です。
本項では、ベトナムでEPE企業設立を検討されている企業様へ、EPE企業とはどういった形態なのか?Non-EPE企業との違いなどについてご解説させて頂きます。
【本項のテーマ】
1. ベトナムEPE企業の定義
– 1-1. EPE企業ってどんな企業?
– 1-2. EPE企業は、国内販売ができない?
2. ベトナムEPE企業が受けれる優遇(インセンティブ)は?
– 2-1. 関税及び付加価値税(VAT)の免除
– 2-2. そのほかのインセンティブ
3. ベトナムEPE企業が抱えるリスクとは?
– 3-1. 税関当局への原材料在庫報告義務
– 3-2. 国内取引においても必要な輸出入申告
4. ベトナムNon-EPE企業について
– 4-1. Non-EPE企業が受けれる「原材料輸入税 免税制度」
– 4-2. 固定資産(製造設備)の輸入関税に対する免除
5. ベトナムEPE企業とNon-EPE企業の違い(まとめ)
– 5-1. EPE企業設立のメリット・デメリット
– 5-2. Non-EPE企業設立のメリット・デメリット
1. ベトナムEPE企業の定義
EPE企業(Export Processing Enterprises)は、輸出加工型企業と言い、ベトナムで製造系の法人を設立する際に選択する企業形態の一つです。
1-1. EPE企業ってどんな企業?
Doanh nghiệp chế xuất là doanh nghiệp được thành lập và hoạt động trong khu chế xuất hoặc doanh nghiệp xuất khẩu toàn bộ sản phẩm hoạt động trong khu công nghiệp, khu kinh tế.
関連政令である政府議定: No.29/2008/ND-CP(産業区・輸出加工区・経済区に関する規制)第2条 第6項目(上述)において定義されていますが、「輸出加工区内において設立・操業している企業、或いは、工業団地内・経済区内で操業し、製品全てを輸出する企業」のことをEPE企業(輸出加工型企業)と呼んでいます。
余談ですが、ベトナム第三の都市であり、ベトナム有数の港町である北部ハイフォンには古くから開発している野村工業団地を始め、日系大手事務機器メーカーが進出するV-SHIP工業団地などがありますが、ハイフォン市に投資する外資系企業の中では、EPE企業(輸出加工型企業)の割合が非常に高いと言われています。ベトナム北部と世界を繋ぐ港町ですから、EPE企業のインセンティブを受けて輸出メインに事業活動を行う製造企業が多いとうことでしょう。
1-2. EPE企業は、国内販売が出来ない?
ベトナムEPE企業が輸出加工型企業と言われるように、製品を輸出するということを前提に、税務上の特別なインセンティブを受けていることから、「国内取引ができない」と思われている企業様も多いですが、実はそうではありません。
EPE企業であっても、国内マーケットへの販売は一部可能です。
またベトナム政府において、EPE企業の国内販売比率(10%)の制限を儲けるかどうかの議論が行われ、改正草案に上がっております。
現時点では制限は無いものの、将来的に制限がかけられる可能性も高く、その時の状況によって、国内取引に割合が増えるEPE企業などは、Non-EPEへの変更などの対応がせまられることになるかもしれません。
2. ベトナムEPE企業が受けれる優遇(インセンティブ)は?
中国に次ぐ世界の工場になるべく、ベトナムへFDI投資を実施する製造企業を積極的に誘致するため、これまでEPE企業には様々なインセンティブが設けられて来ました。以前は、法人税率をダイレクトに軽減するなどの優遇を受けれていましたが、現在では(EPE企業向けの)法人税の優遇は撤廃され原則実施されておりません。
2-1. 輸出入関税及び付加価値税(VAT)の免除
現在の優遇制度としましては、「輸出入関税・付加価値税」が存在しています。ベトナムEPE企業(輸出加工型企業)は、便宜上は保税工場と見做され、輸出入関税および付加価値税(VAT)が免除されるインセンティブがあります。
EPE企業・輸出加工区から輸出された製品に対しては、「輸出関税」が掛かりません。
また、それらの輸出製品の製造のために輸入された資材や原材料などの物品に対しても「輸入関税」と付加価値税(VAT)は免除されます。
ベトナムでEPE企業を設立した場合は、資材・原材料を無税で輸入し、無税で製品を輸出することが出来るのです。
また輸入関税の免除や付加価値税(VAT)の免除は、EPE企業が海外から直接輸入した物品に限らず、ベトナム国内に存在するNon-EPE企業から輸出製品の生産を目的に購入した資材・原材料、さらにはベトナム国内の別のEPE企業・保税区から購入した物品も免除対象となります。ベトナムで輸出メインで事業活動を行う製造企業様とっては、大きなインセンティブになりますね。
2-2. そのほかのインセンティブ
ベトナムEPE企業(輸出加工型企業)は、輸出入関税・付加価値税(VAT)の免除というインセンティブ以外に、EPE企業から輸出される製品・EPE企業向けに輸入される物品に対する輸出入通関に対する優遇(輸出入申請手続きがスムーズ、現物検査が免除など)が実施され、またVAT申告も簡素化されるというメリットがあります。
3. ベトナムEPE企業が抱えるリスクとは?
上述に記載したEPE企業へのインセンティブですが、税制上の恩恵を受けれる反面、デメリットやリスクが存在します。
3-1. 税関当局への原材料在庫報告義務
原材料・資材を無税にて輸入しているEPE企業は、管轄の税関当局に対して、定期的に「原材料の在庫報告」をしなければなりません。この在庫報告に起因した税関当局による指摘が現地の日本企業で相次いで発生しており、注意が必要です。
様々な人が関わり、人やモノが行き来する製造現場の中で、在庫は日々動いているため、帳簿上の数量と実際の数量が一致させる可能性はゼロと言って良いほど難しく、EPE企業が税関へ報告する「税関在庫」と「実在庫」の間には、必ずと言っていいほど「在庫差異」が発生します。
税関には、単に在庫数量を報告するだけでなく、税関に報告している製品ごとの原材料の標準使用量やロス率などを細かく登録(報告)しています。
この使用量と実際の歩留り率の相違を始め、在庫の種類が多岐に渡る場合は特に「出入庫時の処理ミス」や「紛失・盗難」、「試作品政策による材料の消化」「不良品・廃棄するかけら部材(端材)等の処理を正確に税関在庫に反映させていない」などの諸問題が日々発生しており、結果、帳簿在庫より実在庫の方が随分と少ないケースが多く発生しているのです。
この「税関在庫>会社在庫」の状況を税務調査などで指摘されると、(EPE企業として免除を受けて輸入した資材を用いて生産した製品を)本来であれば輸出しないといけないものの、「国内マーケットへ流注させたのではないのか?」という指摘を受け、在庫差異で指摘された超過分を損金参入できない、追徴課税が課されるなどの問題まで発展することがありますので、EPE企業が抱える最も大きなリスクとしてご留意頂ければと思います。
元々ベトナムは在庫差異に対する損金参入は厳しいです。2014年に施行された政令78/2014/TT-BTCの第6条では、棚卸減耗費は「自然災害や火災等の不可抗力によって」在庫に損失が発生した場合にのみ損金算入が認められ、「出入庫時の処理ミス」や「紛失・盗難」などの不可抗力によるものについては損金算入が認められていません。
このような厳しい法令上のルールがある中で、税務調査で指摘された税関在庫との差異に対して、きちんと理由を説明できない状況になると、尚更課されるペナルティを覆すことは難しくなります。
税関当局への原材料在庫報告義務の頻度は?
ベトナムEPE企業による原材料の税関報告の頻度は、報告義務が課された当初は、関連通達128/2013/TT-BTC第49条第4項にて明記されていた通り、「四半期毎の申告」が義務付けられていましたが、2015年に施行されたサーキュラー : (輸出入商品に適用される通関手続と税関監督、税関検査、輸出入税と税務行政を定めた通達 38/2015/TT-BTC)以降、現在では、会計年度終了後90日以内の報告へと変わりました。
以前のように頻繁に報告する機会(4半期ごと)があれば、「税関在庫」と「実在庫」の差異を見直す機会も多いですが、報告義務回数が緩和されたことによって、在庫差異をチェックする回数も減れば、結果的に「在庫差異」を広げてしまうことにもなりかねません。 税関への報告はなくとも、(在庫差異の拡大リスクを減らすといった意味でも)普段から在庫状況を定期的に見直し、税関在庫へ実在庫の内容を反映させることが大切です。
3-2. 国内取引においても必要な輸出入申告
次に、リスクというよりもデメリットとして挙げさせて頂きますが、便宜上、保税工場のような位置付けにあるEPE企業は、国内企業へ製品を販売する取引においても、EPE企業、販売先共にそれぞれで輸出通関、輸入通関が必要になります。
モノは国内を移動するだけですが、書類上、通関申請を行うのです。販売先のクライアントからすれば、Non-EPE企業から購入すればそのような輸入通関手続きを行う必要がありませんので、EPE企業として国内へ製品を販売するときには、(販売先のクライアントに)手間と通関申請費用などのご不便をお掛けするというデメリットは存在します。
4. ベトナムNon-EPE企業について
EPE企業の形態を取らずに法人設立をする場合は、Non-EPE企業(一般製造業)となります。
Non-EPE企業は、(上述で解説させて頂いたような)EPE企業としての(輸出入関税・VATの免税の)恩恵は受けれず、Non-EPE企業は何にインセンティブも受けられない、EPE企業に比べて不利な企業形態だと思われがちなのですが、実はそうではありません。
Non-EPE企業であっても(EPE企業のような)税務上のメリットを享受できる場合があります。
4-1. Non-EPE企業が受けれる「原材料輸入税 免税制度」
実はNon-EPE企業にも、輸出を前提とした製品を製造する場合に「原材料輸入税に対する免税制度」があり、その製品の原材料の輸入税(関税およびVAT)を免税にて輸入することができます。
これまでは、免税輸入した原材料を用いて製品を製造し、(原材料の輸入通関申告日)から275日以内に製品を輸出しなければなりませんでしたが(=275日を超えると輸入関税の支払いが課される)、2016年の改正輸出入税法(107/2016/QH13)および関連政令(100/2016/ND-CP)において、この275日ルールは撤廃されました(275日ルールに関する記述が削除された)。
これによって、Non-EPE企業でも、輸出目的で輸入する原材料の輸入がより容易になり、輸出向けの製造活動を後押しする形となりました。
4-2. 固定資産(製造設備)の輸入関税に対する免除
さらには、2016年の改正輸出入税法(107/2016/QH13)第4章16条に記載されている通り、投資優遇分野・投資優遇を受ける企業に限り、固定資産となる製造設備の輸入関税も免除されます。(ただしVATの支払いは必要)
Non-EPE企業にてベトナム進出を検討される企業様は、条件さえ合えば、製造設備の関税も無税にて輸入することが出来ますので、一度ご確認頂ければと思います。
5. ベトナムEPE企業とNon-EPE企業の違い(まとめ)
条項でご説明させて頂いた内容を、以下にて簡単にまとめさせていただきます。
5-1. ベトナムEPE企業設立のメリット・デメリット
【◎ EPE企業のメリット】
– 海外輸出の製品に対して、以下のアイテムの免税優遇(関税とVATの免税)が受けられる
* 生産で利用する機械設備、原材料、資材、消耗品。
【◎ EPE企業のデメリット】
– 税関当局への原材料在庫報告義務が煩雑(年一回、在庫差異に指摘される可能性あり)
– (国内のEPE企業を除いて) 国内企業と取引する際、販売先も輸入通関手続きを行う必要あり。
* 相手側も輸入関税が課せられます。
* EPE同士の取引では申告不要。
– 現在は国内取引(国内販売)も一部可能だが、将来的に販売比率の制限がかけられる可能性あり。
5-2. ベトナムNon-EPE企業設立のメリット・デメリット
【◎ Non-EPE企業のメリット】
– 海外輸出、国内販売が制限なく自由に取引ができる。
– 条件を満たすと、製品を輸出する目的で輸入する機械設備(固定資産)と原材料に対する関税免税制度を申請できる。
* 無税で輸入した原材料を国内向けの製品生産に利用する場合は、必要分の関税が課せられる。
【◎ Non-EPE企業のデメリット】
– EPE企業が一部で受けられる通関手続きに対する免除などの優遇はなく、通常通りに通関手続きが発生する。
– 製品を輸出する場合は、仕入れVATの一部還付が可能。
以上、「ベトナムEPE企業とNon-EPE企業の比較」について、解説させて頂きました。
ベトナムに進出を検討する製造企業様からも、本項の内容についてよくご質問を頂きますが、実際のところ、EPE企業とNon-EPE企業、実際はどちらに「利」があり、どちらにメリットがあるのでしょうか?
現在では、Non-EPE企業でも原材料や固定資産に対しての免税を受けることが出来ますし、免税を受けた原材料で製造した製品の輸出期限(輸入税支払う猶予期間)である275日ルールも撤廃されました。
またNon-EPE企業の関税免税制度を利用しない場合でも、ベトナムが各国と結ぶ自由貿易協定によって、元々関税がゼロ、または低税率のアイテムが非常に多いため、正直なところ、EPE企業とNon-EPE企業のインセンティブの差はあまり御座いません。
またEPE企業も国内取引が禁止されているわけではなく、きちんとしたルールさえ守れば、国内マーケットへ販売することも出来ますし、両者互いにメリット・デメリットが存在しますから、どちらが良いとは言い切れませんが、
進出企業様が現地で製造したものをどこのマーケットに販売されるのか、輸出向けか?それとも国内マーケット向けか?のどちらに重きを置かれるかによって判断されてはいかがでしょう。
法令上は、EPE企業→Non-EPE企業への形態変更は可能ですが、手続きが煩雑で実務的に非常に難しいプロセスであることから、現地法人設立前に十分にご検討頂ければと思います。
当社でも「EPE企業・Non-EPE 企業の設立」に関しまして、ご相談を承っております。何かお困りのことやご質問など御座いましたら、ぜひ当社へもお気軽にご相談くださいませ。
また本項と合わせて、以下の記事もよく閲覧頂いています。 皆様のベトナム進出のご参考にして頂けますと幸いです。